ヒューリック、リソー教育をTOBで完全子会社化へ

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ヒューリック(東証プライム、3003)は2026年10月13日、連結子会社のリソー教育グループ(東証プライム、4714)に対し、1株295円で公開買付け(TOB)を実施すると発表した。ヒューリックは現在リソー教育株の50.87%を持っており、残りをすべて取得して完全子会社化する。リソー教育の取締役会は賛同と応募推奨を決議した。

公表前営業日の終値209円に対するプレミアムは41.15%で、親会社による完全子会社化の類似事例85件の中央値(39.88%)をやや上回る。

注目すべきは、ヒューリックが2024年にリソー教育を連結子会社化した際のTOB価格が320円だったことである。今回の295円はそれを25円下回る。親子間のTOBで、1段階目より2段階目の価格が低くなった。本記事では、この25円の差をめぐる両者の主張、価格交渉の経緯、下限の設計を整理し、残る少数株主にとっての意味を考える。

※情報基準日:2026年10月14日。数値は2026年10月13日付の各社開示資料による。

取引の条件

項目 内容
公開買付者 ヒューリック株式会社(東証プライム、3003)
対象者 株式会社リソー教育グループ(東証プライム、4714)
公開買付者の現在の所有 86,885,599株(所有割合50.87%)
目的 完全子会社化(成立後に上場廃止の見込み)
買付価格 普通株式1株295円(新株予約権は1個2,940円〜8,820円)
買付期間 2026年10月14日〜11月26日(30営業日)
買付予定数 83,929,751株(下限26,646,601株、上限なし)
応募契約 学校法人駿河台学園(10,333,700株、6.05%)
資金 自己資金
決済開始日 2026年12月3日
対象者の意見 賛同及び応募推奨
配当 2027年2月期の期末配当は行わない

買付予定数の全量を取得した場合の買付代金は約247.6億円になる(83,929,751株×295円、筆者計算)。所有割合は、発行済株式数に新株予約権の目的となる株式数を加え、自己株式を除いた170,815,350株に対する割合である。

ヒューリックはどの価格でリソー教育株を集めてきたか

ヒューリックとリソー教育の資本関係は、2020年の資本業務提携から始まり、段階的に深まってきた。取得価格が開示されているものを中心に並べる。

時期 取得方法 株式数 1株当たり価格 取得後の持株割合
2020年9月 創業者の岩佐実次氏から取得 7,820,000株 開示なし 5.29%
2021年5月 日本道路興運から取得 9,322,039株 開示なし 11.60%
2021年10〜11月 岩佐氏から8,200,000株を取得、第三者割当による自己株式処分で6,500,000株を引受け 14,700,000株 自己株式処分分は443円 21.54%(持分法適用関連会社化)
2024年4〜6月 前回TOB(上限付き) 39,447,230株 320円 ―
2024年5月 第三者割当増資を引受け 15,596,330株 218円 51.12%(連結子会社化)
2026年10月〜 今回TOB(上限なし) 最大83,929,751株 295円 100%を目指す

2024年の連結子会社化では、TOBで320円、第三者割当増資で218円と、2つの価格で計55,043,560株を取得した。加重平均すると1株約291円になる(筆者計算)。今回の295円は、この平均とほぼ同じ水準である。

ただし、第三者割当増資の払込金は株主ではなくリソー教育に入っている。一般株主が受け取ったのはTOBの320円であり、加重平均の291円は買手側のコストを示すにすぎない。

25円の差をめぐる両者の主張

価格交渉の中で、ヒューリックとリソー教育の特別委員会は、前回TOB価格の扱いについて正面から対立した。開示資料に記された両者の主張は次のとおりである。

ヒューリックの主張

いわゆる支配権プレミアムは、リソー教育の支配権を獲得した前回TOBの時点で支払われるべきもので、すでに支払済みである。今回さらに支配権プレミアムを支払う必要はない。前回TOBの取引条件は、当時の事業計画や市場環境を前提に決まったもので、今回の価格の基準にはならない。

加えて、難関校受験向けの完全個別指導という業態は質の高い講師を多数確保する必要があり、人件費上昇の影響を受けやすい。売上高と利益の成長率も同業他社に劣後しているため、事業計画の評価は慎重に行う必要がある、と説明した。

特別委員会の主張

前回TOBの目的は連結子会社化であり、今回は完全子会社化である。完全な支配権に付随する利益を考えれば、本来は前回を上回る価格やプレミアムで実施すべきである。

また、前回TOBには買付予定数の上限があったため、すべての少数株主が売却の機会を得たわけではない。前回の価格を十分に考慮すべきだ、と主張した。

開示資料が示す差の理由

ヒューリックは25円の差について、市場株価の変動(前回公表前営業日の終値218円に対し、今回は209円)と、プレミアム水準の違い(前回46.79%、今回41.15%)によると説明している。株価が4.13%下がり、プレミアムも約5.6ポイント低くなった結果である。

最終的に、特別委員会は「295円は前回公開買付価格の320円に達するものではない」と認めたうえで、現時点の事業環境と事業計画を踏まえれば本源的価値が十分に反映された価格だとして、賛同を答申した。

5回の提案で240円から295円へ

日付 ヒューリックの提案 前営業日終値に対するプレミアム 特別委員会の回答
9月1日 240円 14.29% 類似事例のプレミアム水準を勘案した価格とは到底評価できない
9月9日 260円 23.81% 依然として著しく不十分
9月18日 280円 30.84% 少数株主にとって未だ十分な水準ではない
9月29日 290円 37.44% MoM条件の設定か、十分な価格引き上げを要請
10月2日 295円(最終提案) 41.15% MoMを設定しないならさらなる引き上げを要請
10月6日・8日 295円を再提示 ― 10月9日に受諾

当初の240円から55円、率にして22.9%の引き上げである(筆者計算)。ただし、9月29日以降の上積みは5円にとどまる。特別委員会は9月30日、価格を十分に引き上げるか、マジョリティ・オブ・マイノリティ(MoM)条件を設定するかの二択を求めたが、ヒューリックはMoMを設定せず、価格も295円から動かさなかった。

もう一つ注目すべきは、駿河台学園との応募契約の経緯である。ヒューリックは9月28日、特別委員会と交渉中であることを説明したうえで、駿河台学園に290円での応募意向を確認し、応募する意向の回答を得た。特別委員会に290円を提示する前日である。第2位株主の応募を先に確保したうえで、残りの交渉に臨んだことになる。

295円は算定レンジのどこにあるか

算定機関 手法 1株当たり株式価値
みずほ証券(ヒューリック側) 市場株価基準法 201円〜210円
みずほ証券(ヒューリック側) 類似企業比較法 105円〜205円
みずほ証券(ヒューリック側) DCF法 160円〜470円
プルータス・コンサルティング(リソー教育側) 市場株価法 201円〜210円
プルータス・コンサルティング(リソー教育側) 類似会社比較法 139円〜216円
プルータス・コンサルティング(リソー教育側) DCF法 170円〜354円

295円は、リソー教育側のプルータス・コンサルティングによるDCFレンジの中央値262円を33円上回り、市場株価法と類似会社比較法の上限も上回る。プルータスはリソー教育の一般株主にとって財務的見地から公正である旨のフェアネス・オピニオンを出している。

類似会社比較法では、ナガセ、早稲田アカデミー、スプリックス、明光ネットワークジャパン、学究社、城南進学研究社が比較対象に選ばれた。その上限は216円で、同業の市場評価を基準にすると現在の株価水準に近い値しか出ない。295円を支えているのはDCF法と、プレミアムの水準である。

簿価との比較では、2026年8月31日時点の1株当たり純資産67.09円に対し、295円はPBR約4.4倍になる(筆者計算)。資産ではなく、教室運営から生まれる収益力に対して支払う価格である。

下限の設計と少数株主の影響力

買付予定数の下限26,646,601株は、ヒューリックの持株と取締役の譲渡制限付株式を合わせて議決権の3分の2に達する水準に設定されている。

駿河台学園の10,333,700株を除くと、下限に必要な追加応募は16,312,901株で、駿河台学園以外の少数株主が持つ73,596,051株の約22.2%にあたる(筆者計算)。

MoM条件を設定していれば、ヒューリック以外の株主83,929,751株の過半、つまり約4,196万株超の応募が必要だった(筆者計算)。実際の下限はその約63.5%の水準で、駿河台学園以外の少数株主の約8割が応募しなくても、TOBは成立しうる。

ヒューリックは、MoM条件を設けると成立が不安定になり、応募を望む株主の利益に資さない可能性があると説明している。持株比率が50%を超える親会社のTOBでは、この説明が広く使われている。

ヒューリックが完全子会社化を急ぐ理由

ヒューリックは2024年の連結子会社化以降、子ども向け教育特化型ビル「こどもでぱーと」への出店拡大やDX投資を進め、首都圏で3棟を開業した。2029年までに首都圏で20棟程度を展開する方針である。2026年7月には東大受験指導専門塾「鉄緑会」を運営する東京教育研を完全子会社化している。

一方で、リソー教育は人件費や賃料の高騰にスピード感を持って対応できず、業績が同業他社に劣後し、直近1年間の株価は低位で推移したとヒューリックは認識している。

ヒューリックが挙げる最大の理由は、経営資源の投下に伴うコストとリスクをヒューリックが負う一方、その成果はリソー教育の全株主に帰属するという不一致である。完全子会社化すれば、親子ローンなどの資金援助や、鉄緑会との連携を含む幼児教育から最難関大学受験までのラインナップを、少数株主との利益相反を気にせず組み立てられるようになる。

支配権プレミアムは前回払ったのか

ヒューリックのリソー教育TOBは、プレミアム41.15%、DCF中央値を上回る価格、フェアネス・オピニオンの取得と、形式上の公正性担保措置はそろっている。

それでも、295円は2024年に連結子会社化した際の320円を下回る。ヒューリックは支配権プレミアムを前回支払済みとし、特別委員会は完全支配には改めてプレミアムが要ると主張した。結論は、株価の下落と業績の劣後を理由に、前回より低い価格で決着した。前回TOBの上限で売り切れなかった株主にとっては、2年半前に提示された価格より低い金額で退出を求められることになる。

段階的に子会社化を進めた親会社が、業績が振るわない局面で残りを取得すると、2段階目の価格は1段階目を下回りうる。親子上場の解消が続くなかで、少数株主が1段階目のTOBにどう応じるべきかを考えるうえで、本件は参照すべき事例になる。

親会社による子会社の完全子会社化と、ディスカウントでのTOBを扱った記事として、以下も参照されたい。

味の素、マレーシア子会社AMBの完全子会社化に242億円——営業利益15倍は高いか、SCRという選択の意味
https://assetsalon.online/ajinomoto-malaysia-berhad-scr-privatization-2026/

CEホールディングス非公開化TOBが成立——前日終値比4%ディスカウントの1,650円に約82%が応募、多段階スキームの設計
https://assetsalon.online/cehd-sk03-tob-2026/

引用元

一次情報

ヒューリック株式会社「株式会社リソー教育グループ(証券コード:4714)の株券等に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」(2026年10月13日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20261013/140120261013549957.pdf

ヒューリック株式会社「株式会社リソー教育グループの株券等に対する公開買付けの開始に関する補足資料」(2026年10月13日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20261013/140120261013549959.pdf

株式会社リソー教育グループ「当社親会社であるヒューリック株式会社による当社株券等に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」(2026年10月13日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20261013/140120261013549920.pdf

ディスクロージャー

本記事はヒューリック株式会社及び株式会社リソー教育グループの適時開示資料をもとにした分析です。買付代金、2024年取得分の加重平均価格、価格引き上げ率、PBR、下限達成に必要な応募比率などは開示数値から筆者が計算したもので、支配権プレミアムや少数株主の立場に関する評価は筆者の解釈です。特定銘柄の売買や公開買付けへの応募・不応募を勧めるものではありません。判断にあたっては公開買付届出書等の一次情報を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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