ワールド(東証プライム、3612)とTSIホールディングス(東証プライム、3608。以下TSIHD)は2026年10月14日、共同株式移転で経営統合することで合意した。2027年3月1日に共同持株会社「インフィニティ・ユナイテッド」を設立し、両社はその完全子会社になる。株式移転比率はワールド1に対しTSIHD0.8で、TSIHD株1株に新会社株0.8株が割り当てられる。
2026年2月期の売上高はワールドが2,840億円、TSIHDが1,671億円。単純に合計すると4,500億円を超えるアパレル企業グループになる。
本記事では、比率0.8で決まった持分配分を両社の売上・利益・純資産と比べ、ワールド株主にとって統合後の1株当たり利益が目減りしないために何が必要かを、開示数値から逆算する。
※情報基準日:2026年10月15日。数値は2026年10月14日付の両社共同開示資料による。両社の会計基準は異なる(ワールドはIFRS、TSIHDは日本基準)ため、両社の数値を足し合わせた計算は目安である。
目次
統合の条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| スキーム | 共同株式移転(両社が完全子会社、新設の共同持株会社が完全親会社) |
| 共同持株会社 | 株式会社インフィニティ・ユナイテッド(本店:東京都港区北青山) |
| 株式移転比率 | ワールド1:TSIHD0.8 |
| 交付予定株式数 | 121,858,487株 |
| 上場 | 両社は2027年2月25日に上場廃止、新会社が3月1日に東証プライムへテクニカル上場 |
| 機関設計 | 監査等委員会設置会社(任意の指名・報酬委員会を設置) |
| 会計処理 | パーチェス法の見込み(のれん又は負ののれんの金額は未確定) |
| 統合後の組織 | 新会社の下に中間持株会社3社(TSI、ワールド・ブランズ、ワールド・ソリューションズ) |
| 算定機関 | ワールド側:野村證券、TSIHD側:みずほ証券 |
| 法務アドバイザー | ワールド側:西村あさひ法律事務所・外国法共同事業、TSIHD側:野村綜合法律事務所 |
統合の実行には、両社の株主総会での承認と関係当局の許認可が必要になる。協議は2026年6月頃に始まったと開示されている。
スケジュール
| 手続 | 日付 |
|---|---|
| 取締役会決議・経営統合契約締結 | 2026年10月14日 |
| 臨時株主総会の基準日 | 2026年10月31日(予定) |
| 臨時株主総会(両社) | 2026年12月24日(予定) |
| 両社の上場廃止 | 2027年2月25日(予定) |
| 新会社設立・新規上場 | 2027年3月1日(予定) |
0.8で新会社の37.4%がTSIHD株主に
交付株式数121,858,487株は、両社の発行済株式から2026年8月31日時点の自己株式を除いた株数で計算されている。両社は効力発生日までに自己株式を消却する予定である。
| ワールド | TSIHD | |
|---|---|---|
| 発行済株式数 | 77,139,828株 | 63,438,793株 |
| 自己株式 | 857,631株 | 6,468,430株 |
| 自己株式控除後 | 76,282,197株 | 56,970,363株 |
| 割当比率 | 1 | 0.8 |
| 新会社株式 | 76,282,197株 | 約45,576,290株 |
| 新会社での持分 | 約62.6% | 約37.4% |
(自己株式控除後の株数と持分は筆者計算。合計は開示された交付予定株式数と一致する)
TSIHDは発行済株式の約1割を自己株式として持っている。これを消却した後の株数に0.8を掛けるため、比率の数字から受ける印象よりTSIHD株主の持分は小さくなる。
37.4%は何と見合っているか
2026年2月期の数値で、両社が統合後のグループに持ち込むものの割合を比べた。
| 指標(2026年2月期) | ワールド | TSIHD | ワールド:TSIHD |
|---|---|---|---|
| 売上高(売上収益) | 284,014百万円 | 167,085百万円 | 63.0:37.0 |
| 営業利益 | 16,028百万円 | 4,325百万円 | 78.7:21.3 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 12,013百万円 | 3,793百万円 | 76.0:24.0 |
| 純資産(資本合計) | 96,282百万円 | 99,321百万円 | 49.2:50.8 |
| 営業利益率 | 5.6% | 2.6% | |
| 新会社での持分 | 62.6% | 37.4% | 62.6:37.4 |
(比率・利益率は筆者計算。ワールドはIFRS、TSIHDは日本基準)
持分の配分は売上高の比率とほぼ同じである。一方、利益の比率で見ればTSIHDの取り分は2割強にとどまり、純資産で見ればほぼ半々になる。37.4%は、利益で測った貢献より大きく、純資産で測った貢献より小さい。
市場株価がすでに0.77〜0.78だった
この配分は交渉で上乗せされたものではない。両社の算定機関が市場株価法で出した比率は、いずれも0.77〜0.78だった(算定基準日2026年10月13日)。統合を公表する前から、株式市場はTSIHD株1株をワールド株の0.77〜0.78株分と評価していたことになる。
0.8はこの範囲を2.6〜3.9%上回る(筆者計算)。TSIHD株主にとっては小幅なプレミアムで、「対等の精神」をうたう統合として、市場株価にほぼ沿った比率といえる。
| 算定手法 | 野村證券(ワールド側) | みずほ証券(TSIHD側) |
|---|---|---|
| 市場株価法 | 0.77〜0.78 | 0.77〜0.78 |
| 類似会社比較法 | 0.66〜1.56 | 0.41〜1.31 |
| DCF法 | 0.72〜1.19 | 0.35〜1.28 |
市場が織り込んでいたTSIHDの利益回復
市場がTSIHDに利益の比率以上の評価を与えていた理由は、開示資料のDCF法の前提から読み取れる。両算定機関とも、TSIHDの2027年2月期から2029年2月期の事業計画に、大幅な増益を見込む年度が含まれていると記載している。
具体的には、人員配置の見直し、事業・店舗の統廃合、広告販促費の効率化、仕入先の集約といった収益構造改革に加え、直近で買収した事業の成長により、営業利益とフリー・キャッシュ・フローが大きく増える計画である。2027年2月期は、買収した会社の業績を連結に取り込むことで売上高も大きく増える。
一方、ワールドの同期間の計画には、大幅な増減益を見込む年度はない。
2026年2月期の利益だけで比べればTSIHDの37.4%は大きい。この差は、TSIHDの利益がこれから改善するという計画と、それを一定程度信じた市場株価によって埋められている、と整理できる。
ワールド株主の1株当たり利益は目減りする
ここから、統合直後の1株当たり利益を単純計算する。統合効果、のれん等の会計処理、会計基準の違いは考慮していない。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| ワールドの1株当たり純利益(自己株式控除後の株数ベース) | 約157.5円 |
| 両社合算の純利益 | 15,806百万円 |
| 統合後の1株当たり純利益(121,858,487株ベース) | 約129.7円 |
| ワールド株主から見た変化 | 約17.6%減 |
| TSIHD株主から見た変化(TSIHD株1株あたり、0.8株換算) | 約66.6円→約103.8円 |
(すべて筆者計算)
ワールド株主は、利益率の高い自社の利益を、利益率の低いTSIHDと分け合うことになる。統合直後の数字だけを見れば、ワールド株主の1株当たり純利益は2割近く下がる。
希薄化を埋めるのに必要な利益
逆算すると、ワールド株主の1株当たり純利益を統合前の水準に戻すには、両社合算の純利益が約191.9億円必要になる。2026年2月期の合算から約34億円の上積みである。
営業利益で同じ計算をすると、必要な上積みは約53億円になる。両社合算の売上高の約1.2%に相当する(筆者計算)。
この53億円をTSIHDの利益改善だけで賄う場合、TSIHDの営業利益は約96億円、営業利益率は約5.7%になる必要がある。これは、ワールドの2026年2月期の営業利益率(5.6%)とほぼ同じ水準である。
TSIHDの利益率がワールド並みに上がれば、ワールド株主の1株当たり利益は希薄化しない。
裏を返せば、ワールド株主にとってこの比率が妥当かどうかは、TSIHDが自ら掲げる収益構造改革を実行できるかどうかに大きく依存する。統合シナジーで生まれる利益は、その上に積み上がる部分と考えるべきである。
統合で何を共通化するのか
両社は、ブランドポートフォリオが顧客層、販路、商材・価格でほとんど重ならないと説明している。TSIHDはストリートやアメカジに広がるブランドを持ち、ワールドは他社への外販実績があるプラットフォーム(B2B事業)や、独自色の強いサーキュラー(循環型)事業を持つ。開示資料が挙げる統合効果は次の3つである。
事業インフラの共通化
情報システム、物流、コーポレート機能を共通の事業インフラとして統合し、重複する投資と管理コストを減らす。生産・調達、購買・決済の一体化によるコスト削減も見込む。
ブランドが重ならないということは、売上を奪い合わない一方で、売上面の相乗効果も限られることを意味する。数値化しやすいのは、このインフラ統合によるコスト側の効果である。上で逆算した約53億円の営業利益の上積みも、まずはここで生む必要があると考えられる。
顧客情報と販路の相互活用
顧客情報を統合してデジタルマーケティングを強化し、店舗とECを一体で運営するOMOを前提に販路戦略を見直す。商品の相互供給や、地方・海外の販売チャネルの共同開発も挙げている。
投資余力の拡大
規模の拡大で生まれる投資余力を、M&A、海外展開、サーキュラー領域などの成長投資と人材投資に振り向ける。規律ある参入・撤退基準を明確にするとしている。
なお、シナジー額の数値目標や統合後の業績見通しは、今回の開示では示されていない。新会社の経営方針と計画は、今後両社で検討して公表するとしている。
業界再編の受け皿としての持株会社
両社は、国内ファッション市場ではブランドと店舗の供給過剰が10年以上続き、他産業のような合従連衡によるスケールメリットの追求がまだ起きていない、という認識を共有している。
TSIHD自体、2011年に東京スタイルとサンエー・インターナショナルの経営統合で生まれた会社である。当時の狙いもコスト削減、物流・ITの共通化、EC投資の負担分散だった。ブランドの自主性を重んじてきた結果、全社最適化は2021年以降の子会社統合や本社集約まで持ち越された。
今回の統合後の組織は、新会社の下にTSI、ワールド・ブランズ、ワールド・ソリューションズの3つの中間持株会社を置く形になる。ブランド事業を担う会社と、インフラ・B2B機能を担う会社を分けた構造とみることができる。インフラを担う会社が他のアパレル企業も受け入れられる形にしておけば、今後の再編で新たなブランドを取り込む受け皿になる。
ただし、TSIHDの2011年の統合が全社最適化に10年かかった経緯を踏まえると、ブランドの独立性を保ちながらインフラを一本化できるかが、統合効果の実現時期を左右すると考えられる。
ガバナンスと株主構成
取締役会
新会社の取締役は13名で、うち7名が社外取締役である。現職の出身で数えると、ワールド出身が8名、TSIHD出身が5名で、比率は約62%対38%になる(筆者計算)。新会社の持分比率とほぼ同じ配分である。
代表取締役会長にはTSIHDの下地毅社長、代表取締役社長執行役員にはワールドの鈴木信輝社長が就く。取締役会議長はワールドの社外取締役である青木英彦氏が務める。本店はワールドの神戸、TSIHDの赤坂のいずれでもなく、東京・北青山に置く。
主要株主の持分の変化
両社の主要株主は、統合後には持分が薄まる。たとえばTSIHDの第2位株主であるアルペン(6.31%)の持分は、新会社では約2.4%になる。ワールドの寺井秀蔵氏(4.36%)は約2.7%になる(筆者計算、持株比率は自己株式控除後の発行済株式に対する割合)。
両社とも特定の支配株主はおらず、統合後も分散した株主構成になる。株式移転計画は両社の臨時株主総会で特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上)による承認を要し、反対株主には株式買取請求権が認められる。
統合前の配当
経営統合契約では、2027年2月28日までの日を基準日とする配当について、ワールドは1株36円、TSIHDは1株70円を上限に支払えると合意している。TSIHDの上限は、2026年2月期の年間配当40円を上回る。統合後は、配当性向とDOE(株主資本配当率)の一定割合のいずれか高い方を目安とする累進配当を基本方針にする予定である。
利益相反の扱い
両社の間に資本関係、人的関係、取引関係はなく、開示資料は特段の利益相反関係は生じないとして特別委員会などの措置を講じていない。公正性の担保は、両社がそれぞれ独立した算定機関から算定書を取得し、独立した法律事務所の助言を受けることで図っている。
比率0.8が両社に課した条件
ワールドとTSIHDの統合比率0.8は、統合前の市場株価をほぼそのまま反映した水準である。新会社の持分は売上高の比率に近い62.6対37.4で配分され、利益の比率で見ればTSIHD株主に有利、純資産の比率で見ればワールド株主に有利になる。
単純計算では、ワールド株主の1株当たり純利益は統合直後に約18%下がる。これを埋めるには営業利益で約53億円の上積みが必要で、TSIHDの営業利益率がワールド並みの約5.7%に上がることとほぼ同じ意味を持つ。
この統合の採算は、統合シナジーより先に、TSIHDが単独で掲げてきた収益構造改革をやり遂げられるかにかかっている。
ブランドの重ならない2社が組む以上、成果はまずコスト側に表れるはずである。2027年3月の新会社発足後に示される中期計画で、インフラ統合の効果額とTSIHD側の利益改善がどう数字に落とし込まれるかが、比率の妥当性を検証する材料になる。
株式移転比率の決まり方や交換比率と算定レンジの関係は、以下の記事でも整理している。
共同株式移転とは?会社法要件・税務・テクニカル上場・実務事例をM&Aアドバイザーが解説
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引用元
一次情報
株式会社ワールド・株式会社TSIホールディングス「株式会社ワールドと株式会社TSIホールディングスとの共同持株会社設立(株式移転)による経営統合に関するお知らせ」(2026年10月14日、TDnet)
株式会社ワールド・株式会社TSIホールディングス「株式会社ワールドと株式会社TSIホールディングスの経営統合に関するご説明」(2026年10月14日)
株式会社ワールド IR情報
https://corp.world.co.jp/ir/
株式会社TSIホールディングス IR情報
https://www.tsi-holdings.com/ir/
ディスクロージャー
本記事は株式会社ワールドと株式会社TSIホールディングスの適時開示資料をもとにした分析です。自己株式控除後の株数、持分比率、各指標の比率、営業利益率、1株当たり利益、希薄化率、必要な利益の上積み額、主要株主の統合後持分などは開示数値から筆者が計算したもので、会計基準の違いや統合後の会計処理は反映していません。統合の狙いや組織構造の意味に関する記述のうち開示資料に明示されていないものは筆者の解釈です。特定銘柄の売買を勧めるものではありません。判断にあたっては一次情報を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。