売れるネット広告社G、漢方ロングセラー「美露仙寿」の完全子会社化——D2Cマーケティング×34年ブランドの化学反応と株式交換スキームの意図を読む

売れるネット広告社グループによる美露仙寿の完全子会社化を示すイメージ
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東証グロース上場のD2Cマーケティング企業、売れるネット広告社グループ株式会社(9235)は2026年6月29日、健康飲料「美露仙寿」を主力商品とする株式会社国際漢方研究所を、株式取得と株式交換を組み合わせた二段階スキームで完全子会社化すると発表した。

この案件で目を引くのは、買い手側の財務状況だ。売れるネット広告社グループは2024年7月期に3.26億円、2025年7月期に4.44億円の最終赤字を計上しており、2期連続の赤字企業である。一方、対象となる国際漢方研究所は売上約5億円、会員約8万人、累計販売9,000万本という安定した事業基盤を持つ。赤字が続く中で、なぜこのM&Aに踏み切れたのか。この問いへの答えが、本件を理解する出発点になる。

もう一つの論点は、この買収が現金一括ではなく、株式取得47.04%と株式交換52.96%という二段階に分かれている点だ。この設計には、財務体力が限られる買い手側の事情が色濃く反映されている。

1. 案件概要

項目 内容
案件名 株式取得及び株式交換による株式会社国際漢方研究所の完全子会社化
開示会社 売れるネット広告社グループ株式会社(東証グロース・9235)
対象会社 株式会社国際漢方研究所(非上場)
主力商品 健康飲料「美露仙寿」(1992年発売、累計販売9,000万本超、会員約8万人)
スキーム ①株式取得(22,070株・47.04%)+②株式交換(24,848株・52.96%)→完全子会社化
株式取得の対価 198,740,350円+アドバイザリー等31,500,000円=合計約2.3億円
株式交換比率 国際漢方研究所1株:当社株式19.20株
新株発行数 当社普通株式477,081株(予定)
株式取得完了 2026年6月29日(予定)
株式交換効力発生日 2026年8月10日(予定、臨時株主総会承認が条件)
開示日 2026年6月29日

2. 2期連続赤字の買い手が黒字企業を取り込む理由

売れるネット広告社グループの本業は、クライアント企業のD2C・ネット通販の売上拡大を支援するマーケティング事業だ。「最強の売れるノウハウ®」を掲げながら、自社グループの収益は2期連続の赤字という状況にある。フロー型の広告・コンサル収益に依存する事業構造が、業績の不安定さの一因になっていたと見られる。

対する国際漢方研究所は、約8万人の会員が継続的に購入する定期購入モデルを持つ。売上規模は約5億円、譲受後の調整営業利益は約0.2億円とそれほど大きくないが、ストック型の収益構造は、フロー型収益に依存してきた売れるネット広告社グループにとって収益基盤の質的な転換材料になり得る。同社が公表している目的も、自社が持つD2Cマーケティング・ネット広告運用・SNSマーケティング・SEO・AEO・越境ECのノウハウと、国際漢方研究所の商品開発力・顧客基盤・ブランド資産を融合させることだ。自社単独での黒字化が難しい中、安定収益を持つ企業を取り込んで収益構造そのものを変える——この発想が、赤字下でのM&Aを正当化する論理になっている。

3. 47.04%+52.96%、二段階スキームの財務的合理性

全株式を現金で一括取得しようとすれば、多額のキャッシュが必要になる。2期連続赤字の売れるネット広告社グループにとって、それは財務体力的に難しい。かといって株式交換のみで進めれば、価格交渉や条件確定を待つ間に対象会社側の株主の反発を招きやすい。そこで採られたのが、まず現金で47.04%を取得して支配権を先に確保し、残り52.96%を株式交換で取得するという二段階の設計だ。

この設計により、現金支出は株式取得分の約2.3億円に抑えられる。残りの対価は自社株式の新規発行(477,081株)でまかなわれるため、手元資金を大きく減らさずに完全子会社化を実現できる。財務体力が万全ではない買い手が、現金と自社株を組み合わせて対価を最適化した結果のスキームだと言える。

4. 交換比率1:19.20はどう算定されたか

株式交換比率は、国際漢方研究所の1株に対し当社株式19.20株を割り当てる内容だ。この比率の根拠は開示されている。国際漢方研究所の株式価値は、DCF法で1株9,727〜11,042円(企業価値456〜518百万円)、類似会社比較法で8,709〜10,108円と算定されている。一方、売れるネット広告社グループの株価は469円(取締役会前営業日終値)。469円×19.20=約9,004円となり、これはDCF法レンジの下限をやや下回るが、類似会社法のレンジの中間付近には収まる水準だ。算定は第三者機関(青山トラスト会計社)が独立して行っており、一定の公正性は確保されていると見てよい。

ただし、477,081株の新規発行は、既存発行済株式8,103,791株の約5.9%に相当する希薄化になる。2期連続赤字・株価低迷という局面での希薄化である以上、既存株主への説明責任は軽くない。会計上は今回の株式交換が「取得」に該当し、対価の時価と国際漢方研究所の純資産との差額がのれんとして計上される見込みだ。のれんの規模と償却期間は現時点で未確定だが、想定通りの収益貢献が得られなければ、将来の減損リスクとして残ることになる。

5. 「最強の売れるノウハウ」は自社の売上を伸ばせるか

売れるネット広告社グループはこれまで、クライアント企業のD2C売上を伸ばすことを事業としてきた。今回の子会社化は、そのノウハウを自社グループの傘下企業に対して初めて本格的に投下する機会でもある。国際漢方研究所が持つ34年分のブランド資産と大学との共同研究エビデンスは、SNS・SEO・AEOといったデジタル施策との親和性が高いと考えられる分野だ。新規顧客獲得の強化、CRM高度化によるLTV向上、連結子会社「売れる越境EC社」を通じたアジア市場への展開が、公表されているシナジー施策として挙げられている。

これらは現時点では計画段階のものであり、実際に「美露仙寿」の売上が伸びるかどうかは、統合後の実行力にかかっている。国際漢方研究所の年間売上約5億円が連結に加わることで、売れるネット広告社グループの連結売上規模は理論上3割程度拡大する可能性があるが(2025年7月期売上15.67億円との比較)、これは単純合算の試算であり、シナジーの上乗せ効果を織り込んだ数字ではない。

6. のれん減損リスクと株主構成

本株式交換は当社・国際漢方研究所ともに2026年7月27日開催予定の臨時株主総会での承認が条件となっている。売れるネット広告社グループの支配的株主は、加藤公一レオ氏(30.35%)とレオアセットマネジメント(27.50%)で、合計57.85%の議決権を握る。この構成であれば可決自体はほぼ確実だが、株式交換比率の妥当性や希薄化への懸念を持つ少数株主がどう反応するかは、今後の株価動向として注視すべき点だ。加えて、前述ののれんの償却負担が、赤字体質からの脱却を目指す買い手の損益をさらに圧迫する可能性がある点は、楽観的なシナジー期待とは別に見ておく必要がある。

7. 赤字下でのM&A、その合理性——結論

売れるネット広告社グループが赤字を抱えながらこのM&Aに踏み切れた理由は、現金一括取得を避け、株式取得と株式交換を組み合わせることで手元資金への負荷を抑えたスキーム設計にある。加えて、国際漢方研究所が持つストック型収益とブランド資産は、フロー型収益に依存してきた自社の構造的な弱点を補う存在だと判断されたと見られる。ただし、この判断が正しかったかどうかは、のれん償却負担を上回る収益貢献を「美露仙寿」で実際に生み出せるかにかかっている。34年間積み上げられた顧客基盤に、デジタルマーケティングのノウハウを投下して何が起きるか——その答えが出るのは、統合から一定期間が経過した後になる。

8. 引用元

売れるネット広告社グループ「株式取得及び株式交換による株式会社国際漢方研究所の完全子会社化及び子会社(特定子会社)の異動に関するお知らせ」(PR TIMES)
売れるネット広告社グループ公式サイト

9. ディスクロージャー

本記事は、TDnetに開示された公開情報をもとに筆者個人の見解として作成したものです。特定の有価証券への投資を勧誘・推奨するものではありません。掲載情報の正確性・完全性を保証するものではなく、投資判断はご自身の責任において行ってください。弁護士・公認会計士・税理士等の専門家へのご相談を推奨します。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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