阪和興業はなぜ米国の鉄骨メーカーASGを買ったのか——DBJと持分を分け合った347百万ドル買収の設計

阪和興業がDBJと共同で米国Associated Steel Groupの持分を取得したことを示すアイキャッチ
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鉄鋼専門商社の阪和興業は2026年6月30日、日本政策投資銀行(DBJ)と共同で、米国の鉄骨構造物メーカーAssociated Steel Group, LLC(ASG)の全持分を取得すると発表した。持分100%ベースの基準額は347百万米ドル、報道ベースで約560億円にのぼり、日本経済新聞は同社にとって過去最大の買収と報じている。取引は米国の競争法当局のクリアランスを経て、2026年8月31日(米国中部時間)に完了した。阪和興業がASGの50.1%、DBJが49.9%を保有する形で決着している。

商社が海外のメーカーを買うこと自体は珍しくない。しかし本件には、確認しておきたい論点が三つある。鋼材を「売る側」の商社が、なぜ鉄骨を設計・製造する「建てる側」の会社を買ったのか。営業利益を出し続けているのに債務超過というASGの財務をどう読むか。そして、なぜ単独ではなくDBJと持分を半分ずつ分け合ったのか。本記事では6月30日の開示と9月2日の完了開示をもとに、取引の設計と阪和興業の狙いを整理する。

※情報基準日:2026年10月4日(2026年9月2日公表の取得完了の開示を反映)

案件概要:DBJと持分を分け合った347百万ドルの持分取得

項目 内容
案件名 米国Associated Steel Group, LLCの持分取得(連結子会社化)及び連結子会社の増資
開示会社 阪和興業株式会社(東証プライム市場、証券コード8078)
対象会社 Associated Steel Group, LLC(ASG。登記上の所在地は米国デラウェア州ドーバー。事業拠点はオクラホマ州のAlliance Steel, Inc.とミシシッピ州のACI Building Systems, LLC)
売手 Associated Group Holdings, LLC(ASGの持分100%を保有)
買手 阪和興業(北米子会社Hanwa American Corp.〔HAMCO〕経由)/DBJ(日本で新設したSPC経由)
取得後の持分 阪和興業50.1%、DBJ 49.9%(ASGは阪和興業の連結子会社)
取引金額 持分100%ベースの基準額347百万米ドル。阪和興業の総投資額は226百万米ドル(既存借入金等の弁済資金相当の貸付金を含む。最終額は契約上の調整により変動する可能性あり)
資金手当て HAMCOの増資235百万米ドル(払込日2026年8月27日、増資後資本金275百万米ドル)
日程 契約締結2026年6月29日、開示6月30日、持分譲渡実行8月31日(いずれも契約・実行日は米国中部時間)、完了開示9月2日

鉄鋼商社が「建てる側」の会社を買う理由

開示資料は持分取得の理由を、2026年5月12日に公表した中期経営計画2028「Go Beyond ~殻を打ち破れ~」に結びつけて説明している。同計画は「非連続的成長に資する攻めの事業投資」への転換を掲げ、国内市場の構造的な需要変化を見据えて米州・欧州への展開を加速するため、「海外におけるM&A戦略を有力な選択肢として本格的に導入推進する」としている。目標は将来的な海外売上高比率50%で、日本経済新聞によれば2026年3月期の実績は38%だった。中計公表から契約締結までは約1か月半しかない。計画の策定と並行して案件の検討が進んでいたとみるのが自然で、ASGは中計の方針を最初に具体化した案件と位置づけられる。

買収対象の性格にも意味がある。ASGが手がけるのはPEMB(Pre-Engineered Metal Building)と呼ばれる建築システムだ。工場で設計・加工した鉄骨部品を現場で組み立てる方式で、倉庫・工場・店舗といった米国の低層非住宅建築で広く使われている。開示資料はASGの強みとして、顧客の納期に柔軟に対応できる体制と、構造設計分野の技術力・品質を挙げている。

阪和興業の本業は鋼材の流通であり、メーカーから仕入れて需要家に届ける中間の位置にいる。ASGを傘下に入れると、鋼材の需要家そのものを自社グループに持つことになる。開示資料はシナジーについて、ASGを起点に「川下分野の強化のみならず、北米鉄鋼メーカーを含む川上までの全体をカバーするサプライチェーンを構築・強靭化する」と述べている。仲介の口銭だけに頼らず、設計・加工という付加価値の工程から収益を得る。その足場を米国で手に入れることが、本件の狙いと読める。

ASGとはどんな会社か:PEファンドが2012年から組み上げたメタルビルディング連合

ASGの成り立ちを知ると、本件が「PEファンドの出口案件」であることが見えてくる。業界紙や米国のPE専門メディアの報道によれば、ASGは2012年、シカゴのPEファンドPromus Equity Partnersと独立系スポンサーのJon Vesely氏が、メタルビルディング業界の統合を目的に設立した会社だ。2012年8月にミシシッピ州のACI Building Systemsを買収し、2014年にはオクラホマ州のAlliance Steelを傘下に収めた。Alliance Steelの買収時には、LBC Credit Partnersが15百万ドルのセカンドリーン・タームローンを提供したと公表されている。借入を活用しながら同業を束ねていく、典型的なバイ・アンド・ビルド(ロールアップ)型の投資である。

阪和興業の開示でも、売手Associated Group Holdings, LLCの代表者はChairmanのJon Vesely氏で、設立は2012年7月とされている。売手の大株主と持株比率は守秘義務を理由に非開示だが、設立経緯と照らし合わせると、約14年にわたるファンド投資の回収局面で事業会社に売却された案件と位置づけられる。

財務数値から読む:利益を出しながら債務超過の会社をどう評価するか

開示資料に記載されたASGの直近3期の連結業績は次のとおりだ(営業利益率は開示数値から算出)。

決算期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
連結売上高 225,398千米ドル 233,847千米ドル 211,937千米ドル
連結営業利益 49,458千米ドル 49,223千米ドル 41,794千米ドル
営業利益率 21.9% 21.0% 19.7%
親会社株主に帰属する当期純利益 37,841千米ドル 32,184千米ドル 23,471千米ドル
連結純資産 35,820千米ドル △28,401千米ドル △7,937千米ドル
連結総資産 111,912千米ドル 127,978千米ドル 141,919千米ドル

売上高は2024年12月期に増えたあと、2025年12月期に約9%減った。それでも営業利益率は20%前後を保っており、鉄骨加工業としては高い収益力だ。

目を引くのは純資産の動きである。2024年12月期は32百万ドルの純利益を計上しながら、純資産は35.8百万ドルから△28.4百万ドルへ約64百万ドル減少した。他の資本変動がなかったと仮定すると、単純計算で約96百万ドル規模が出資者への分配などで社外に流出したことになる。総資産はむしろ増えているため、分配の原資の多くは借入で賄われたと推測できる。PEファンドが投資期間中に借入を増やして配当を受け取る、いわゆるレバレッジド・リキャピタリゼーションと整合的な動きだ。もっとも、開示資料に分配や借入の明細はないため、これはあくまで公表数値からの推計である。

この推計を裏づけるのが、完了開示に記載された阪和興業の総投資額だ。基準額347百万ドルに阪和興業の持分50.1%を掛けると約174百万ドルになる。実際の総投資額226百万ドルはそれを約52百万ドル上回る。完了開示は、総投資額に「ASG及びその子会社の既存借入金等の弁済資金相当額の貸付金額」が含まれると注記している。買収と同時に、ASGが抱えていた借入の少なくとも一部をHAMCOからの貸付で置き換えた形である。前オーナーが積み上げたレバレッジを、買い手の信用力で借り換えたとみることができる。

価格水準も確認しておく。基準額は「クロージング時の現預金及び有利子負債、運転資本の額」などで調整される仕組みだ。この種の価格条項では、基準額が「現預金も有利子負債もない状態」の事業価値、つまり企業価値に近い数字を表すことが多い。仮にそうみなすと、347百万ドルは2025年12月期営業利益の約8.3倍にあたる。減価償却費が開示されていないためEV/EBITDA倍率は計算できないが、利益水準に照らして突出した高値づかみとはいいにくい水準だ。純資産がマイナスの会社でも、評価の軸はあくまで稼ぐ力にあることがわかる。

DBJとの共同投資は何を変えたか

本件の設計でもっとも特徴的なのが、DBJとの共同投資である。6月30日の開示時点では、阪和興業の取得割合は「50.1%~100.0%」と幅をもって示されていた。DBJがクロージングに至らなかった場合は阪和興業が100%を取得するとしていたからだ。HAMCOの増資額も200百万~397.25百万ドルのレンジで開示されていた。

結果として、DBJは新設SPCを通じて49.9%を取得し、阪和興業の持分は下限の50.1%に収まった。増資額235百万ドルはレンジの下限寄りで、総投資額226百万ドルを賄う規模である。過半数をわずかに上回る50.1%にとどめたことで、阪和興業はASGを連結子会社にして経営の主導権を握りつつ、資金負担を単独取得の場合よりおおむね半分に抑えた。

この設計の意味は二つある。一つは財務規律だ。過去最大の買収でありながら、自己資本と有利子負債への影響を限定できる。もう一つは案件の確実性である。DBJの参加を前提にしつつ、参加できなかった場合でも阪和興業が全持分を引き受けると事前に約束していた。売手から見れば、共同投資の調整が理由で取引が流れるリスクがない。競合する買い手がいる場面で、この「バックストップ」は条件面の強みになり得る。

一方で、共同投資には固有の論点も残る。49.9%を持つDBJとの間で、配当方針や追加投資、将来の持分の扱いをどう定めているかは開示されていない。連結子会社であっても、利益の約半分は非支配株主に帰属する。阪和興業の親会社株主に帰属する利益への貢献は、ASGの利益全体よりかなり小さくなる点に注意が必要だ。

今後の注目ポイント

第一に、業績への織り込みである。完了開示時点でも、本件の連結業績への影響は2027年3月期の通期予想に含まれておらず、「現在精査中」とされている。のれんの金額やPPA(取得原価の配分)の結果、買収関連費用がどう開示されるかは、今後の決算で確認したい。

第二に、売上高の減少傾向が続くかどうかだ。ASGの2025年12月期の売上高は前期比約9%減った。米国の非住宅建設の需要動向に左右される事業であり、阪和興業の鋼材調達力や販売網を組み合わせて減収を食い止められるかが、シナジーの最初の試金石になる。

第三に、PMIと現地経営陣の継続性である。ASGの強みは納期対応と地域顧客との関係にあり、人に紐づく部分が大きい。PEファンドの下で業界統合を進めてきた経営陣が、事業会社の傘下でどこまで意思決定の自由度を保てるかは、買収後の成否を左右する。

阪和興業は本件で、米国のPEMB市場に製造・設計の当事者として参入したことになる。日本企業による海外M&Aの論点という点では、カナダの上場企業を裁判所主導の手続きで取得したキリンHDによるJamieson Wellnessの完全子会社化も、取引構造の違いを比較するうえで参考になる。

まとめ:PEのロールアップ資産を、事業会社と政策金融が引き継いだ

本件は、PEファンドが14年かけて組み上げたメタルビルディング連合を、日本の鉄鋼商社と政策金融機関が共同で引き継いだ取引である。阪和興業は50.1%という最小限の過半数で経営権を確保し、資金負担と取引の不確実性をDBJとの共同投資で抑えた。PEファンドが育てた事業の受け皿として事業会社が登場する構図は、ブラックストーンからあゆみ製薬を取得したGNIグループの案件とも共通する。

国内の需要縮小に直面する卸売型の企業にとって、本件が示すのは二つの選択肢だ。一つは、需要家側の機能を買って付加価値の工程に入ること。もう一つは、単独では負いきれない規模の案件でも、共同投資で持分と負担を分ければ実行できることである。ただし、債務超過の会社を買う以上、価格の妥当性は純資産ではなくキャッシュフローで判断する必要がある。前オーナーのレバレッジをどう処理するかも、案件の設計に組み込まなければならない。阪和興業の今後の決算でASGの貢献がどう表れるかが、この判断の答え合わせになる。

引用元

一次情報

阪和興業株式会社「米国Associated Steel Group, LLCの持分取得(連結子会社化)及び連結子会社の増資に関するお知らせ」(2026年6月30日)
https://www.hanwa.co.jp/ms/data/pdf/ir/20260630_5355.pdf

阪和興業株式会社「(開示事項の経過)米国Associated Steel Group, LLCの持分取得(連結子会社化)の完了及び連結子会社の増資に関するお知らせ」(2026年9月2日)
https://www.hanwa.co.jp/ms/data/pdf/ir/20260902_5444.pdf

阪和興業株式会社「中期経営計画(2026年度-2028年度)に関するお知らせ」(2026年5月12日)
https://www.hanwa.co.jp/news/ir/202605125256/

阪和興業株式会社 中期経営計画
https://www.hanwa.co.jp/company/middle.html

関連情報・報道

日本経済新聞「阪和興業、米国の鉄鋼構造物メーカー買収 DBJと560億円で」(2026年6月30日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC307RM0Q6A630C2000000/

Metal Architecture「Formation of Associated Steel Group, LLC and the Acquisition of ACI Building Systems, LLC」
https://www.metalarchitecture.com/news/daily-news/formation-of-associated-steel-group-llc-and-the-acquisition-of-aci-building-systems-llc/

PE Hub「Promus Equity Partners Forms Associated Steel Group」
https://www.pehub.com/promus-equity-partners-forms-associated-steel-group/

Metal Construction News「Promus Equity Partners and Jon S. Vesely Announce Associated Steel Group LLC’s Acquisition of Alliance Steel Inc.」
https://www.metalconstructionnews.com/news/daily-news/promus-equity-partners-and-jon-s-vesely-announce-associated-steel-group-llcs-acquisition-of-alliance-steel-inc-1/

PR Newswire「LBC Credit Partners Provides $15,000,000 Second Lien Term Loan to Support Associated Steel Group LLC’s Acquisition of Alliance Steel, Inc.」
https://www.prnewswire.com/news-releases/lbc-credit-partners-provides-15000000-second-lien-term-loan-to-support-associated-steel-group-llcs-acquisition-of-alliance-steel-inc-246332001.html

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本記事は、阪和興業株式会社が公表した適時開示資料・IR資料、および報道機関等による公開情報をもとに作成した分析・見解です。記載内容の正確性・完全性を保証するものではなく、特定の銘柄や取引、投資行動を勧誘・推奨する目的のものではありません。分配額の推計や価格倍率など、開示数値をもとに筆者が算出・推測した部分は、その旨を本文中に明記しています。取得価額・財務数値・見通し等は各開示時点のものであり、契約上の調整等により変動する可能性があります。投資判断や経営判断にあたっては、必ず一次情報をご確認のうえ、公認会計士・弁護士・M&Aアドバイザー等の専門家にご相談ください。

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日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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