2026年5月19日、株式会社インフォネット(東証グロース・4444)は、建築CG・XRアプリケーション・デジタルツイン事業を展開する株式会社アクティブリテックの完全子会社化を決議した。現金による株式取得(150株・約5,000万円)と、自社株を対価とする株式交換(1,050株・新株419,685株交付)を組み合わせた二段階スキームで、株式交換は7月1日に効力を発生している。
本件は、Web制作・CMSの会社が、売上高で自社の4割強に相当する3DCG会社を取り込む案件だ。一方で、売り手側の株主と買い手の経営陣・大株主が重なっており、ガバナンスの観点から確認すべき点も多い。開示資料の数字から、価格・希薄化・利益相反の3点を読み解く。
※情報基準日:2026年10月5日。
目次
1. 案件概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 買い手 | 株式会社インフォネット(東証グロース・4444) |
| 対象会社 | 株式会社アクティブリテック(非上場、2021年11月設立、従業員109名) |
| スキーム | 株式取得150株(12.5%)+株式交換1,050株(87.5%)→100% |
| 株式取得価額 | 50,002,470円(別途アドバイザリー費用等の概算10,000,000円) |
| 株式交換比率 | アクティブリテック1株:インフォネット399.7株 |
| 交付株式数 | インフォネット普通株式419,685株(新株発行) |
| 算定機関・手法 | 株式会社ROLEUP、DCF法(株式価値326,941,379円〜422,518,831円) |
| 日程 | 5月19日 決議・契約締結/6月19日 株式取得/6月29日 インフォネット定時株主総会で承認/7月1日 株式交換の効力発生 |
2. 両社の規模と業績
| 項目 | インフォネット(連結、2026年3月期) | アクティブリテック(単体、2025年9月期) |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,085百万円 | 880百万円 |
| 営業利益 | 55百万円 | 63百万円 |
| 当期純利益 | △25百万円 | 24百万円 |
| 純資産 | 1,087百万円 | 128百万円 |
| 総資産 | 1,933百万円 | 382百万円 |
アクティブリテックの売上高は、2023年9月期の448百万円から2025年9月期の880百万円へと2年で約2倍に伸びている。営業利益は11百万円→30百万円→63百万円と拡大し、直近期の営業利益は買い手のインフォネットを上回る。一方のインフォネットは、2026年3月期の営業利益が前期の168百万円から55百万円に落ち込み、最終赤字となった。2027年3月期第1四半期(4〜6月)も営業損失106百万円を計上している。
開示によれば、アクティブリテックは建築CG会社として国内最大規模の体制を持ち、大手デベロッパーとの取引実績が多い。3DハンディスキャナーXgridsを使ったデジタルツイン事業も手がける。インフォネットは目的として、両社の経営資源を一元的に統合し機動的に相互活用できる体制の構築を挙げ、「将来の持株会社体制への移行も見据えて」本件を決めたとしている。
3. 筆者試算:価格・倍率・希薄化
以下は開示数値に基づく筆者の試算である。
(1)株式価値約4億円は、DCFレンジの上寄り
採用された1株333,349.8円に発行済1,200株を掛けると、アクティブリテックの株式価値は約4.0億円となる。DCF法の評価レンジ(約3.27億〜4.23億円、1株当たり約272,451円〜352,099円)の中で、下限から約76%の位置にあたる上寄りの水準だ。インフォネット株は算定基準日(5月18日)の終値834円で評価されており、333,349.8円÷834円=399.7株が交換比率になっている。現金で取得した150株も同じ1株単価(150株×333,349.8円=50,002,470円)で、現金部分と株式部分の価格は揃っている。
(2)倍率は純利益の約17倍、純資産の約3.1倍
株式価値約4.0億円は、2025年9月期の当期純利益24百万円の約17倍、純資産128百万円の約3.1倍、営業利益63百万円の約6.3倍にあたる。成長中の非上場会社としては極端な水準ではない。ただし、DCFの前提となる事業計画はFY2026のEBIT(利払い前税引き前利益)を約37%増と見込んでおり、この成長が前提になっている。
(3)希薄化は約20%と大きい
交付株式419,685株は、インフォネットの発行済株式2,049,093株の約20.5%にあたる。開示上の議決権ベースでも、交換後の総議決権24,403個のうち4,196個(約17.2%)が新株主に渡る。売上高4割強の会社を取り込む対価として、既存株主は2割弱の持分を差し出した計算になる。
(4)業績予想は上方修正
インフォネットは8月4日、アクティブリテックの連結子会社化に伴い、2027年3月期の連結業績予想を売上高2,239百万円→3,301百万円、営業利益137百万円→183百万円、当期純利益56百万円→72百万円に修正した。営業利益の上積み約45百万円は、アクティブリテックの直近期営業利益63百万円の約9か月分におおむね見合う水準だ。のれんの金額は、第1四半期決算短信の時点では確定していない。
4. ガバナンス上の注目点——売り手と買い手の重なり
大株主の資産管理会社が売り手の一つ
インフォネットの取締役会長・江村真人氏は、株式取得の相手先の一つである株式会社フォーカスキャピタルの代表取締役を兼務している。フォーカスキャピタルは江村氏が100%を保有する資産管理会社で、インフォネットの議決権の43.1%を持つ大株主であり、アクティブリテック株式の8.3%も保有していた。このため江村氏は会社法369条2項の特別利害関係取締役として審議・決議から外れ、残る取締役5名の全員一致で可決された。監査役3名のうち出席した2名も異議がない旨を述べている。
対象会社の筆頭株主の代表者が、買い手の代表取締役社長に
アクティブリテックの筆頭株主(55.8%)は株式会社パスファインダーで、5月19日の開示では代表取締役を東間大氏と記載している。パスファインダーの所在地は、アクティブリテックの本店所在地と同じだ。パスファインダーは株式交換によりインフォネット株を受け取り、議決権14.13%の第2位株主となった。
インフォネットは5月29日、つまり本件の取締役会決議から10日後に「代表取締役の異動に関するお知らせ」を開示した。6月29日の定時株主総会後に、江村真人氏が代表取締役会長、東間大氏が代表取締役社長に就き、古宿智社長は退任してCOOとして業務執行を担うという内容だ。同じ開示に載った東間氏の略歴には「2019年2月 ㈱パスファインダー 代表取締役(現任)」と明記されており、対象会社の筆頭株主の代表者が、買い手の社長に就いたことが一次情報で確認できる。略歴によれば、東間氏は2017年6月にインフォネットの代表取締役会長、同年12月に取締役会長を務めた経歴も持ち、インフォネット株式を10,500株保有している。実際に、7月1日の完了開示と8月14日の第1四半期決算短信では、東間氏が代表取締役社長として記載されている。
以上が開示資料から確認できる事実だ。ここからは筆者の見方を述べる。5月19日の開示が利益相反の対象として扱ったのは、江村氏とフォーカスキャピタルだけだった。株式交換比率を決めた時点で、パスファインダーの代表者を社長に迎える人事がどこまで想定されていたかは開示されていない。結果として、本件は対象会社の売り手側の代表者と、買い手の大株主の双方が、取引後の買い手の代表取締役に就く構図になった。開示によれば、DCFの前提となった財務予測は「江村真人氏を除いた当社及びアクティブリテック社の経営陣」が作成したとされる。少数株主の立場からは、取引条件の公正性について、より踏み込んだ説明があってよかった案件といえる。今後の有価証券報告書の関連当事者情報などで、取引の構図を継続的に確認したい。
ロックアップの記載はない
パスファインダーなどアクティブリテックの旧株主が受け取った新株について、5月19日の開示に継続保有の約束(ロックアップ)に関する記載はない。発行済株式の約2割にあたる株式が市場で売却されれば需給に影響しうるため、大株主の保有動向は注視が必要だ。
5. M&A実務上の注目ポイント
「現金で一部取得→株式交換」の二段構え
アクティブリテックの株主は8名(法人3社、個人5名)だった。株式交換は株主総会の特別決議で全株式を一度に取得できるため、株主が複数いる非上場会社を完全子会社化する手段として使いやすい。本件では、株式交換に先立って一部株主から150株を現金で買い取っている。現金化を望む株主には現金を、継続保有を望む株主には上場株を渡すという、売り手ごとの事情に合わせた設計と読める。事後開示書類によれば、株式買取請求を行った株主はいなかった。
DCFの前提を誰が作ったか
非上場会社の株式交換では、対象会社の価値がDCF法の前提となる事業計画に大きく左右される。本件では、利害関係のある江村氏を計画作成から外したと明記されている。これは評価できる対応だが、利益相反の範囲をどう線引きしたかまでは開示から読み取れない。利害関係者が複数いる取引では、算定書の取得に加え、特別委員会や独立社外取締役による検討など、より厚い公正性担保措置が検討に値する。
6. 経営者への示唆
① 株式対価のM&Aは「誰が新しい大株主になるか」を選ぶ取引でもある
本件では、対象会社の旧株主が買い手の議決権の約17%を持ち、筆頭株主の代表者は買い手の社長に就いた。株式交換は資金を使わずに済む一方、売り手が自社の株主構成と経営に入ってくる。人事やガバナンスへの影響まで含めて設計し、開示で説明する必要がある。
② 利益相反は「法定の除外」だけでは足りない場合がある
特別利害関係取締役を決議から外すのは最低限の手続だ。売り手と買い手の関係が複層的な場合は、関係者の範囲を広くとらえ、独立した検討体制を整えることが、のちの株主の信頼につながる。
③ 成長会社の取り込みは、買い手自身の業績回復と表裏一体
本件後のインフォネットの業績予想は、アクティブリテックの連結を前提に大きく引き上げられた。既存事業が伸び悩む中での大型取り込みは、統合後の成長が計画を下回れば、のれんの減損として跳ね返るリスクもある。
現金と株式を組み合わせて非上場会社を取り込んだ例として、売れるネット広告社グループによる国際漢方研究所の完全子会社化(現金での一部取得の後に株式交換)も参考になる。
7. まとめ
インフォネットによるアクティブリテックの完全子会社化は、Webと3DCG・デジタルツインという補完的な技術を組み合わせ、業績予想を大きく引き上げる案件だ。価格はDCFレンジの上寄りながら、純利益の約17倍と成長会社として極端な水準ではない。
一方で、約20%の希薄化を伴い、売り手側の筆頭株主の代表者が取引後に買い手の社長に就くなど、売り手と買い手の経営陣・大株主が重なる構図になっている。本件の評価は、取り込んだ成長が計画どおりに実現するかに加え、ガバナンス面の説明が株主に十分届くかにかかっている。
8. 引用元
株式会社インフォネット「株式取得及び株式交換による株式会社アクティブリテックの完全子会社化ならびに主要株主の異動に関するお知らせ」(2026年5月19日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260519/140120260519540849.pdf
株式会社インフォネット「代表取締役の異動に関するお知らせ」(2026年5月29日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260529/140120260529554128.pdf
株式会社インフォネット「株式交換による株式会社アクティブリテックの完全子会社化完了に関するお知らせ」(2026年7月1日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260701/140120260701585354.pdf
株式会社インフォネット・株式会社アクティブリテック「株式交換に係る事後開示書面」(2026年7月1日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260701/140120260701585798.pdf
株式会社インフォネット「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年8月14日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260814/140120260813519869.pdf
9. ディスクロージャー
本記事は公開情報をもとに作成した個人的見解であり、投資勧誘を目的とするものではありません。「筆者試算」「筆者の見方」とした部分は筆者独自の計算・解釈です。掲載情報の正確性・完全性を保証するものではなく、投資判断は専門家への相談と自己責任でお願いします。
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