エコムが外注先ゴダイエンジニアリングを子会社化——赤字転落の会社を純資産1.12倍で買った理由を検算する

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2026年6月12日、株式会社エコム(名証メイン市場・6225)は、産業システム事業の外注先である株式会社ゴダイエンジニアリング(埼玉県川越市)の発行済株式200株すべてを93百万円で取得し、子会社化すると発表した。アドバイザリー費用等を含めた概算総額は98百万円。株式取得は予定どおり8月1日に完了している。

この案件には、2025年12月11日の基本合意という前段がある。基本合意の時点で取得価額は未定とされ、最終契約で93百万円に決まった。直近期に赤字へ転落した会社を、なぜ純資産の約1.12倍で買ったのか。開示された財務数値を検算しながら読み解く。

※情報基準日:2026年10月5日。

1. 案件概要

項目 内容
買い手 株式会社エコム(名証メイン・6225、加熱装置メーカー)
対象会社 株式会社ゴダイエンジニアリング(1990年4月設立、加熱式乾燥装置の設計・製作販売・保守)
売り手 古賀信氏(99%)、古賀悦子氏(1%)
取得株式 200株(議決権100%)
取得価額 93百万円(アドバイザリー費用等を含む概算98百万円。決算短信ではアドバイザリー費用等5,876千円)
既存の関係 産業システム事業における外注先としての取引関係
日程 2025年12月11日 基本合意/2026年6月12日 契約締結/8月1日 株式取得完了

2. 「半年」は最初から予定されていた

基本合意の開示を確認すると、2025年12月11日の時点で、株式譲渡契約の締結は「2026年6月中旬(予定)」、株式譲渡の実行は「2026年8月上旬(予定)」とされていた。実際の契約締結は6月12日、取得完了は8月1日で、当初示した日程どおりに進んだことになる。

ゴダイエンジニアリングの決算期は2月だ。筆者の見方では、2026年2月期の決算が固まってから最終価格を決める段取りを、基本合意の段階から組んでいたと考えるのが自然だろう。直近期の業績を確認したうえで価格を決めるのは、中小企業M&Aの基本的な進め方でもある。

3. 対象会社の業績——4期分で見ると振れが大きい

基本合意時と最終契約時の開示を合わせると、ゴダイエンジニアリングの業績は4期分を追える。

決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益 純資産
2023年2月期 194百万円 15百万円 18百万円 12百万円 108百万円
2024年2月期 326百万円 △7百万円 △7百万円 △6百万円 101百万円
2025年2月期 210百万円 10百万円 26百万円 20百万円 122百万円
2026年2月期 138百万円 △39百万円 △39百万円 △38百万円 83百万円

2024年2月期の326百万円を頂点に、売上高は2年で約58%減った。ただし4期で見ると、2023年2月期は194百万円で、2024年2月期が突出していたともいえる。受注生産型の装置メーカーでは、大型案件の有無で売上高が大きく振れやすい。営業利益も黒字と赤字を行き来しており、安定した収益力を測りにくい会社だ。2025年2月期は営業利益10百万円に対して経常利益が26百万円と、本業以外の収益が利益を押し上げていた点にも注意したい。

4. 筆者試算:純資産1.12倍という価格の意味

以下は開示数値に基づく筆者の試算である。

(1)価格はほぼ純資産
取得価額93百万円を2026年2月期の純資産83百万円で割ると約1.12倍。アドバイザリー費用等を含む概算98百万円でも約1.18倍だ。直近期が赤字のため収益倍率は算出できない。4期平均の純利益(約−3百万円)で見ても赤字で、価格はほぼ純資産を基準に決まったとみられる。

(2)買い手にとっての規模は小さい
エコムの2026年7月期は、売上高2,664百万円、営業利益524百万円、当期純利益353百万円の増収増益だった。期末の現金及び預金は1,658百万円、純資産は3,587百万円ある。取得価額93百万円は現預金の約5.6%、純資産の約2.6%にとどまり、財務への負担は小さい。対象会社の直近期の売上高138百万円も、エコムの売上高の約5%にすぎない。

(3)連結予想は「上積みは小さく」
エコムは2027年7月期から連結決算に移行し、連結業績予想を売上高3,000百万円、営業利益540百万円とした。2026年7月期の単体実績と比べると、売上高は約336百万円増える一方、営業利益の増加は約16百万円にとどまる。予想の内訳は開示されていないが、少なくとも初年度については、子会社化による大きな利益貢献は見込んでいない計画と読める。

5. 「ユーザーが重ならない」補完関係

開示によれば、ゴダイエンジニアリングは比較的規格化された低価格・短納期の装置を得意とし、エコムは長納期のオーダーメイド装置を得意とする。両社は同じ加熱装置メーカーながら「ユーザーがラップすることなく」シナジーが期待できるとされる。主要ユーザーは樹脂系部品メーカー、電子部品メーカー、印刷機メーカー、自動車部品メーカーだ。

エコムは、受注活動に加えて、ものづくりの分野で両社の技術者の協働と共有を進め、付加価値の高い装置提案につなげるとしている。ただし、こうしたクロスセルや技術者の協働が実際に機能するかは、連結後の売上推移を見なければ確認できない。

6. 外注先を買うことの意味

ゴダイエンジニアリングは、エコムの産業システム事業の外注先だった。筆者の見方では、取引を通じて対象会社の技術力・品質・納期対応を把握していたことが、赤字の直近期でも100%取得に踏み切れた背景にあると考えられる。デューデリジェンスで見落としやすい「現場の実力」を、取引実績で事前に確かめられる点は、取引先M&Aの大きな利点だ。

一方で、外注先を子会社化すると、これまでの外注取引はグループ内取引になる。外注費が連結上消去されるため、連結後の売上高の伸びは、両社の単純合計より小さく見える点には注意が必要だ。グループ内の取引条件をどう設定するかは、子会社単体の業績評価にも影響する。

売り手は創業家の古賀信氏・古賀悦子氏で、対象会社の代表取締役は古賀悦子氏だ。創業から35年以上を経た会社が、取引関係のある上場企業のグループに入る形は、事業承継の一つの型ともいえる。同じく取引先の施工会社を取り込んだ案件として、日本ヒュームによる中部基礎の子会社化も参考になる。

7. まとめ——価格より「回復できるか」が問われる

エコムは、基本合意の段階で決めていた日程どおりに、直近期の決算を確認したうえで純資産をわずかに上回る価格で取得した。買い手の規模に比べて小さな案件で、財務上のリスクは限られる。

問われるのは、売上高が頂点から約6割減り赤字に転落した対象会社の受注を、エコムとの連携でどこまで立て直せるかだ。連結初年度となる2027年7月期の決算で、子会社の業績がどう表れるかを確認したい。

引用元

株式会社エコム「株式取得(子会社化)に向けた基本合意書締結のお知らせ」(2025年12月11日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20251211/140120251211518157.pdf
株式会社エコム「株式会社ゴダイエンジニアリングの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」(2026年6月12日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260612/140120260611568786.pdf
株式会社エコム「2026年7月期 決算短信〔日本基準〕(非連結)」(2026年9月11日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260911/140120260911534845.pdf

ディスクロージャー

本記事は公開情報をもとに作成した個人的見解であり、投資勧誘を目的とするものではありません。「筆者試算」「筆者の見方」とした部分は筆者独自の計算・解釈です。掲載情報の正確性・完全性を保証するものではなく、投資判断は専門家への相談と自己責任でお願いします。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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