カルナバイオサイエンス株式会社(東証グロース、4572)は2026年10月19日、Cantor Fitzgerald Europeを割当先とする第5回無担保転換社債型新株予約権付社債(以下、転換社債)の発行条件を決議した。9月28日に設定した転換社債発行プログラム(第4回〜第6回)の2回目の発行にあたる。
転換価額は302.4円で、決議日直前の終値336円の90%である。加えて、社債は額面100円につき90円で発行される。転換価額の割引と社債の発行価格の割引が重なるため、投資家が実際に払う金額で見た株式の取得単価は、株価の約81%になる。
本記事では、この二重の割引を計算し、第4回からの転換価額の変化、9月に発行した新株式との条件の差、プログラム全体の希薄化を整理する。
※情報基準日:2026年10月19日。数値は同日付のカルナバイオサイエンスの適時開示による。第4回転換社債の転換価額は開示数値からの筆者推計である。
目次
第5回転換社債の条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 割当先 | Cantor Fitzgerald Europe |
| 払込期日 | 2026年11月4日 |
| 新株予約権の数 | 40個 |
| 払込金額 | 1億8,720万円(額面100円につき90円) |
| 額面総額 | 2億800万円(筆者計算:1億8,720万円÷0.9) |
| 転換価額 | 302.4円(2026年10月16日終値336円の90%) |
| 価格修正条項 | なし |
| 転換による最大交付株式数 | 687,830株 |
| 利率 | 年1.0% |
| 償還期限 | 2029年11月2日(額面100円につき100円で償還) |
| 当社による繰上償還 | 事前通知により額面で可能 |
| 主な特約 | 社債が残る間、割当先以外からの資金調達(M&A、役職員向け株式報酬等を除く)には割当先の書面承諾が必要 |
価格修正条項がないため、発行後に株価が下がっても転換価額は302.4円のままである。いわゆるMSCB(転換価額が株価に合わせて下がる転換社債)ではない。
二重の割引を計算する
投資家は額面2億800万円の社債を1億8,720万円で買う。転換すれば、額面を転換価額302.4円で割った687,830株を受け取る。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 投資家の払込額 | 1億8,720万円 |
| 転換で得る株式数 | 687,830株 |
| 払込額÷株式数(実質取得単価) | 約272.2円 |
| 直前終値336円に対する比率 | 約81% |
| 直前終値に対する割引率 | 約19% |
(筆者計算)
転換価額の割引(90%)と発行価格の割引(90%)を掛け合わせると0.9×0.9=0.81になる。日本証券業協会の指針は、第三者割当で新株を発行する場合の払込金額を直前終値の90%以上とするよう求めているが、転換社債では、新株予約権の公正価値を算定し、それと払込条件を比べて有利発行かどうかを判断するのが一般的である。
会社は、第三者算定機関の赤坂国際会計による評価額(額面100円につき79.9円〜90.2円)の範囲内に発行価格90円が収まっていることなどから、有利発行には当たらないと判断している。監査等委員会(全員社外取締役の4名)も同様の意見を出している。
投資家にとっては、株価が実質取得単価272円を上回っていれば転換して売却すれば利益が出る。株価が転換価額を大きく下回ったままなら、満期に額面100円で償還を受ければよい。90円で買って3年後に100円を受け取り、年1%の利息も得るので、償還まで持った場合の利回りは概算で年4%台半ばになる(筆者概算)。株価が上がれば転換、上がらなければ償還という、投資家にとって下値を抑えた設計である。
第4回から転換価額は約26%下がった
開示資料によれば、プログラムで発行する転換社債(第4回〜第6回)の払込金額の合計は5億6,160万円で、全額が転換された場合の交付株式数は1,883,596株とされている(第6回は第5回と同じ転換価額で転換したと仮定)。
ここから第4回の条件を逆算すると、次のようになる(筆者推計。各回の払込金額が1億8,720万円で等しく、発行価格がいずれも額面100円につき90円と仮定)。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 第4回の額面 | 2億800万円 |
| 第4回の交付株式数(1,883,596株−687,830株×2) | 507,936株 |
| 第4回の転換価額(推計) | 約409.5円 |
| 第5回の転換価額 | 302.4円 |
| 変化率 | 約−26% |
推計した第4回の転換価額409.5円は、9月28日に決議した新株式の発行価額(後述)と一致する。
プログラム型の資金調達では、各回の発行時点の株価を基準に条件を決める。株価が下がれば、同じ金額を調達するのに必要な株式数が増える。第4回(9月28日決議)と第5回(10月19日決議)の約3週間で、同じ額面に対する潜在株式数は約35%増えた計算になる(687,830株÷507,936株)。
新株式の引受人との条件の差
カルナバイオは9月28日、五味大輔氏(同社の株主)とkaya holdings株式会社を割当先とする新株式の第三者割当も決議し、2,075,900株を発行している。払込金額の総額は8億5,008万1,050円で、1株あたりでは409.5円になる(筆者計算)。
| 引受人 | 手段 | 1株あたりの実質単価 |
|---|---|---|
| 五味大輔氏、kaya holdings | 新株式(9月28日決議) | 409.5円 |
| Cantor Fitzgerald Europe | 第5回転換社債 | 約272.2円 |
(第5回の実質単価は払込額÷最大交付株式数)
条件を決めた時点の株価が違うため、単純な比較はできない。ただし、同じプログラムの中で、新株式の引受人は株価下落のリスクをそのまま負い、Cantorは償還による下値の支えと二重の割引を得ている。資金の出し手によってリスクの負い方が大きく異なる構造である。
希薄化の規模
| 項目 | 株式数 | 発行済株式数に対する比率 |
|---|---|---|
| 転換社債(第4回〜第6回)が全て転換された場合 | 1,883,596株 | 9.12% |
| 新株式 | 2,075,900株 | 10.05% |
| 合計 | 3,959,496株 | 19.17% |
(2026年6月30日現在の発行済株式数20,652,469株に対する比率。開示資料による)
第6回の転換価額は未定で、開示資料は第5回と同じ302.4円を仮定している。株価がさらに下がれば、第6回の転換価額も下がり、希薄化は19.17%を上回る。
開示資料は、過去6か月の1日あたり平均出来高166,705株と比べて、全体の3,959,496株は市場に過度の影響を与える規模ではないとしている。第5回の最大交付株式数687,830株は平均出来高の約4.1日分、全体は約23.8日分である(筆者計算)。
なお、Cantorは以前に発行された第2回転換社債も保有しており、その額面残高は9月28日時点の1億2,500万円から本日現在3,125万円に減っている。約3週間で9,375万円分が転換などで減ったことになる(筆者計算)。
調達資金の使途と手取り
プログラム全体の払込金額は、転換社債5億6,160万円と新株式8億5,008万円の合計14億1,168万円で、発行諸費用4,200万円(約3.0%)を差し引いた手取りは13億6,968万円である。
資金は、BTK阻害剤docirbrutinib(AS-1763)とCDC7阻害剤monzosertib(AS-0141)の臨床開発費、前臨床段階のパイプラインの開発費、研究費、運転資金に充てる。monzosertibについては、2026年10月5日に米MDアンダーソンがんセンターとフェーズ1bの医師主導治験に関する契約を締結している。
株主が見るべき点
第5回転換社債の転換価額302.4円は直前終値の90%で、社債を額面の90%で発行するため、Cantorの実質的な株式取得単価は約272円、株価の約81%になる。推計では、第4回の転換価額409.5円から約3週間で26%下がっている。
創薬ベンチャーにとって、研究開発資金を確保するための第三者割当は避けにくい。ただし、プログラム型の転換社債は、株価が下がるほど次の回の転換価額が下がり、既存株主の持分が薄まる仕組みである。カルナバイオの株主にとっての論点は、第6回の発行時点の株価と、調達した資金でmonzosertibやdocirbrutinibの開発がどこまで進むかである。
第三者割当の発行価格と希薄化を扱った記事として、以下もある。
クラスターテクノロジー、エプソンに3億円の第三者割当——PBR約0.98倍・希薄化17.5%で主要顧客が筆頭株主に
https://assetsalon.online/cluster-technology-epson-capital-alliance-2026/
引用元
一次情報
カルナバイオサイエンス株式会社「新株予約権付社債発行プログラム設定契約に基づく第三者割当による第5回無担保転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ」(2026年10月19日、TDnet)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20261019/140120261014550573.pdf
ディスクロージャー
本記事はカルナバイオサイエンス株式会社の適時開示資料をもとにした分析です。額面総額、実質取得単価、割引率、償還まで保有した場合の利回り、第4回転換社債の転換価額と交付株式数、新株式の1株あたり発行価額、出来高に対する日数などは、開示数値から筆者が計算・推計したものです。第4回に関する数値は、各回の払込金額と発行価格が等しいという仮定に基づく推計です。日本証券業協会の指針に関する記述は一般的な説明です。特定銘柄の売買を勧めるものではありません。判断にあたっては一次情報を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。