フェローテックのAMTD子会社化、売り手の筆頭株主は自社社長

株式会社フェローテック(東証スタンダード、6890)は2026年10月20日、持分法適用会社である中国の安徽博芯微半导体科技有限公司(以下AMTD)の持分を追加取得し、連結子会社にすると発表した。AMTDは半導体製造装置向けのアルミシャワーヘッドなどを製造する会社で、フェローテックは中国子会社の杭州大和熱磁電子有限公司(FTH)を通じて20.3%を出資している。

FTHは、もう一方の出資者である杭州博日科技股份有限公司(以下杭州博日)から持分46.7%を1億5,000万中国元(約36億円)で買い取る。

この取引で目を引くのは、売り手の杭州博日の筆頭株主(49.51%)であり法定代表者を務めるのが、フェローテックの代表取締役社長である賀賢漢氏だという点である。賀氏はAMTDの法定代表者も兼ねている。本記事では、価格の水準を計算したうえで、社長が売り手側にも立つ取引について、開示資料が何を示し、何を示していないかを整理する。

※情報基準日:2026年10月20日。数値は同日付のフェローテックの適時開示による。円換算は開示資料の1中国元=23.74円を用いた。

取引の概要

項目 内容
買い手 杭州大和熱磁電子有限公司(FTH、フェローテック100%子会社)
売り手 杭州博日科技股份有限公司
対象会社 安徽博芯微半导体科技有限公司(AMTD)
取得持分 46.7%
取得価額 1億5,000万中国元(約36億円)
対価 現金
FTHの持分 20.3%→67.6%
異動の理由 杭州博日にとって半導体関連事業は主要事業ではなく、同事業をFTHに譲渡することで合意
日程 取締役会決議2026年10月20日、AMTD株主総会10月30日(予定)、株式譲渡11月30日(予定)
業績への影響 今期は軽微

AMTDの資本金は3億元(約71億円)で、フェローテックの資本金の10%を超えるため、特定子会社に該当する。

持分比率の数字が合わない

開示資料では、杭州博日の持分比率が47.3%と記載されている一方、取得する持分は46.7%とされている。取得後のFTHの持分67.6%は、20.3%に47.3%を足した数字と一致する(20.3%+46.7%なら67.0%)。0.6ポイントの差がどこから生じているのか、開示資料からは判断できない。本記事では、取得価額の計算には開示どおり46.7%を用いる。

価格は純資産の約1.3倍、相手は営業赤字

AMTDの2026年3月期の業績は次のとおりである。

項目 2026年3月期
売上高 4億7,887万円
営業利益 △3億5,211万円
経常利益 △3億3,507万円
当期純利益 △4億4,087万円
総資産 68億4,523万円
純資産 57億6,218万円

AMTDの設立は2024年6月で、立ち上げ期の工場とみられる。売上高は約4.8億円にとどまり、営業損失は売上高の約7割にあたる(筆者計算)。

取得価額を当てはめると、次のようになる(筆者計算)。

指標 数値
100%換算の持分価値 約3億2,120万元(約76億円)
純資産に対する倍率(PBR) 約1.32倍
取得する46.7%に対応する純資産 約26.9億円
取得価額と対応純資産の差 約8.7億円
登録資本金3億元の46.7%との比較 1億4,010万元に対し1億5,000万元(約1.07倍)

赤字の立ち上げ期の工場を、純資産を約3割上回る価格で買う計算である。登録資本金に対しても約7%上乗せされている。ただし、中国の登録資本金は払込みが完了していない場合もあり、純資産は円換算の基準日が異なるため、比較は目安である。

赤字で売上の小さい会社の場合、純資産を上回る価格の根拠は、将来の収益見通しや設備の価値になるはずである。開示資料は、価格をどのように決めたか(第三者による算定の有無、評価方法)を記載していない。

社長が売り手側にも立つ構図

開示資料に記載された関係

開示資料に記載された関係者の関係を整理すると、次のようになる。

会社 賀賢漢氏の立場 フェローテックとの関係
フェローテック 代表取締役社長 —
FTH(買い手) 董事長 フェローテック100%子会社
AMTD(対象会社) 法定代表者 持分法適用会社→連結子会社
杭州博日(売り手) 法定代表者、49.51%の株主 資本関係なし(開示資料による)

杭州博日の第2位株主は杭州富浙資通股権投資合伙企業(18.95%)で、賀氏の持分49.51%はそれを大きく上回る。

社長の経済的な利害

FTHが杭州博日に支払う1億5,000万元は、杭州博日という会社に入る。賀氏が直接受け取るわけではない。ただし、杭州博日の株主として、賀氏はその49.51%に相当する経済的利害を持つ。単純に持分比率を掛けると約7,430万元(約17.6億円)である(筆者計算)。

買い手側の会社の社長が、売り手側の会社の筆頭株主として、売却代金の約半分に相当する経済的利害を持つ構図である。この取引では、価格が高いほどフェローテックの株主には不利になり、杭州博日の株主である賀氏には有利になる。

開示資料に書かれていないこと

フェローテックの開示資料は、杭州博日との関係について「資本関係:該当事項はありません」「人的関係:当社代表取締役が当該子会社の役員を兼任」と記載している。一方、次の点は記載されていない。

項目 開示資料での記載
取得価額の算定方法 記載なし
第三者算定機関の起用 記載なし
賀氏の取締役会決議への参加の有無 記載なし
独立社外取締役や特別委員会による検討 記載なし
関連当事者取引への該当の判断 記載なし

これらが実施されていないという意味ではない。社内で手続きが取られていても、適時開示に書かれていない可能性はある。ただ、社長の利害が売り手側にある以上、少数株主が価格の妥当性を判断するための情報としては不足している。

会社法上、取締役会の決議について特別の利害関係を持つ取締役は議決に加われない。今回の取引の当事者は子会社のFTHであり、フェローテックの取締役会決議がこの規定の対象になるかは個別の判断になる。いずれにしても、賀氏がどのように取引に関与したかの説明は、株主にとって重要な情報である。

事業上の理由はある

公正性の説明が足りないからといって、取引自体の事業上の理由がないわけではない。

開示資料によれば、もともと杭州博日がAMTDに出資してアルミシャワーヘッドなどの製造・販売を始め、フェローテックもFTH経由で出資していた。杭州博日の事業内容は臨床検査分析機器や診断試薬の販売で、半導体関連は主要事業ではない。そのため、事業をFTHに移すことで合意したと説明されている。

シャワーヘッドは、半導体製造装置の中でガスを均一に流す部品である。フェローテックは半導体製造装置向けの部品・部材を手がけており、AMTDの製品をラインナップに加えれば、製造装置メーカー向けの収益を増やせると判断している。半導体とは関係の薄い会社が持つ持分を、半導体部品を本業とするグループに集めること自体は、事業上合理的とみることができる。

価格の説明が残された論点

フェローテックは、営業赤字で売上高約4.8億円のAMTDを、純資産の約1.3倍、100%換算で約76億円の評価で連結子会社にする。売り手の杭州博日は、フェローテックの賀賢漢社長が49.51%を持つ会社である。

事業の集約という理由は理解できる。しかし、社長が売り手側で大きな利害を持つ取引である以上、問われるのは「なぜこの価格なのか」である。開示資料には、価格の算定方法、第三者による評価、利害関係のある取締役を除いた検討の有無が示されていない。

フェローテックの少数株主にとって確認すべきは、取得価額を裏付ける評価と、賀氏を除いた意思決定の手続きである。経営者が個人で大きな持分を持つグループ外の会社から資産を買い取る場合、どこまで説明すべきかは、この種の取引に共通する論点である。

利益相反のある取引をどう処理したかが問われた案件として、以下の記事も参考になる。

UNIVA・OakがフィンテックをM&Aで内製化——ユニヴァ・ペイキャスト取得が問う利益相反の処理と決済戦略の深層
https://assetsalon.online/univa-oak-univapaycast-fintech-acquisition-2026/

中国子会社の持分取引を扱った記事として、以下もある。

小林製薬、債務超過の中国製造子会社・江蘇小林製薬を譲渡——負債は総資産の約5倍、譲渡前に増資で整理
https://assetsalon.online/kobayashi-pharma-jiangsu-equity-transfer-2026/

引用元

一次情報

株式会社フェローテック「持分法適用会社の株式取得に伴う特定子会社への異動のお知らせ」(2026年10月20日、TDnet)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20261020/140120261020553550.pdf

ディスクロージャー

本記事は株式会社フェローテックの適時開示資料をもとにした分析です。100%換算の持分価値、純資産倍率、対応純資産との差、持分比率に応じた経済的利害の試算などは、開示数値から筆者が計算したものです。開示資料に記載がない事項について、その手続きが実施されていないと断定するものではありません。会社法に関する記述は一般的な制度の説明です。取引の意図や評価に関する記述は、開示資料に明示されていない筆者の解釈を含みます。特定銘柄の売買を勧めるものではありません。判断にあたっては一次情報を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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