アピリッツ、Shopify上位パートナーのフルバランスを完全子会社化——PBR12.6倍・PER6倍の価格をどう読むか

アピリッツによるフルバランスの完全子会社化を示すイメージ
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東証スタンダード上場のアピリッツ(証券コード4174)は2026年6月29日、ShopifyによるECサイト構築を手がける株式会社フルバランスの全株式を取得し、完全子会社化すると発表した。株式の取得価額は125,000千円、アドバイザリー費用等(概算)30,000千円を含めた総額は155,000千円で、株式譲渡は7月1日に実行された。

上場企業のM&Aとしては小さな案件だが、開示された数字には読みどころがある。対象会社は2年前まで赤字で、純資産は直近でも1,000万円に届かない。それでも株式価額は純資産の12倍を超えた。一方で、直近期の利益に対する倍率で見ると決して高くない。買い手のアピリッツ自身も前期に大きな赤字を計上していた。本記事では、開示資料の数字から価格の水準と、小規模M&Aならではの論点を整理する。

※情報基準日:2026年10月4日(株式譲渡は2026年7月1日に実行済み)

案件概要

項目 内容
開示会社(買手) 株式会社アピリッツ(東証スタンダード、証券コード4174)
対象会社 株式会社フルバランス(東京都新宿区、2004年1月設立、資本金4,000千円)
事業内容 Shopifyを活用したECサイト構築受託開発・運用保守、D2C支援
売手 角間実氏(同社取締役会長、40%)、原田真緒氏(同社代表取締役、30%)、中西健輔氏(30%)
取得株式数 80株(議決権所有割合100.0%)
取得価額 株式125,000千円+アドバイザリー費用等(概算)30,000千円=155,000千円
日程 書面決議2026年6月29日、契約締結6月30日、株式譲渡実行7月1日
連結への影響 2027年1月期第3四半期から損益を連結。同期の連結業績への影響は軽微

取締役会決議は、会社法第370条と定款の規定にもとづく書面決議で行われた。完全子会社化後も、フルバランスの代表取締役は引き続き同社の経営に関与するとされている。

フルバランスとはどんな会社か

開示資料によれば、フルバランスはECサイトの設計・制作から運用、マーケティング、売上拡大までを顧客と並走して支援する「ECコンシェルジュ」型のサービスを展開してきた。国内で数社のみが認定される「Shopify Platinum Partners」に選ばれ、2024年には「Shopify Partner of the Year」を受賞している。推し活関連グッズなどエンターテインメント領域のEC支援に強みを持ち、ブックオフグループホールディングスやサントリーホールディングスなどを含む約200社の構築実績がある。収益は月額の運用契約と初期構築を組み合わせた形で、ストック型の収入を確保しているという。

設立は2004年で、創業から20年を超える。同日に公表された補足リリースで、原田代表は「創業者である角間から代表を引き継いで以来」と述べている。創業者の角間氏が会長として40%、後を継いだ原田氏が30%を持つ、オーナー経営の会社である。

数字で見る業績:赤字・債務超過から1期で回復

決算期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 92,556千円 198,053千円 269,861千円
営業利益 △18,891千円 △17,374千円 17,973千円
当期純利益 △14,324千円 △15,732千円 20,422千円
純資産 5,207千円 △10,525千円 9,897千円
総資産 41,704千円 49,011千円 66,660千円

売上高は2年で約2.9倍に伸びた。その一方で、2023年3月期と2024年3月期は営業赤字が続き、2024年3月期末には純資産が△10,525千円の債務超過に陥っている。2025年3月期に営業利益17,973千円・当期純利益20,422千円を計上し、純資産はプラスに戻った。営業利益率は6.7%である。

つまりアピリッツが買ったのは、「長年安定して稼いできた会社」ではなく、「売上が急拡大し、直近1期で黒字に転じたばかりの会社」だ。成長の勢いをどう評価するかと、黒字が続くかどうかの見極めが、価格の妥当性を左右する。

価格の水準:簿価では割高、利益では割安

株式の取得価額125,000千円を80株で割ると、1株あたり1,562,500円になる。開示上の1株当たり純資産は123,717円なので、純資産倍率(PBR)は約12.6倍だ。純資産の水準だけを見れば、かなり高い価格に見える。

ところが利益で測ると見え方が変わる。2025年3月期の当期純利益20,422千円に対しては約6.1倍、営業利益17,973千円に対しては約7.0倍である。純資産が小さいのは、赤字の時期に資本が目減りしたうえ、資本金400万円という小さな器のまま事業を拡大してきたためだ。受託開発の会社は大きな設備を持たず、価値の源泉は人材と顧客基盤にある。純資産倍率より利益倍率のほうが、実態に近い物差しだろう。

ただし、前提となる利益は黒字化した最初の1期の数字にすぎない。売上高の対前期増加率は114%から36%へ鈍化している。2025年3月期の利益水準が維持できなければ、倍率は一気に上がる。のれんの金額は開示されていないが、純資産を大きく上回る価格であるため、取得価額の大半がのれんなどの無形資産として計上されるとみられる。

もう一つ目を引くのが、アドバイザリー費用等の概算30,000千円だ。株式価額の24%に相当する。仲介・財務・法務などの費用には案件規模にかかわらず一定の固定部分があるため、小規模M&Aでは取引コストの比率が高くなりやすい。日本の会計基準では、こうした取得関連費用は発生時に費用として処理する。総額155,000千円という数字で投資回収を考える必要がある。

買い手アピリッツの事情:赤字からの回復局面での買収

開示資料に添付された参考情報によれば、アピリッツの2026年1月期の連結業績は売上高9,955百万円、営業損益△309百万円、親会社株主に帰属する当期純損益△465百万円と赤字だった。本件はその回復を図る局面で決定された。

その後の業績は計画を上回っている。アピリッツは2026年9月9日、2027年1月期の通期予想を修正し、営業利益を228百万円から462百万円へ、親会社株主に帰属する当期純利益を114百万円から217百万円へ引き上げた。修正理由は主にWebソリューション事業での原価圧縮と、推しカルチャー&ゲーム事業でのコスト最適化で、フルバランスの寄与を理由とするものではない。フルバランスの損益が連結されるのは第3四半期からである。

アピリッツの規模から見ると、総額155百万円は通期予想の営業利益の約3分の1にあたる。会社全体を揺るがす投資ではないが、回復途上の会社にとって無視できない金額だ。

アピリッツの狙い:推し活事業とShopifyの組み合わせ

アピリッツは、Webソリューション事業、デジタル人材育成派遣事業、推しカルチャー&ゲーム事業の3事業を展開している。中期ビジョン「アピリッツ VISION2030」では、受託開発を軸とする「Delivery」モデルから、顧客の事業成長をともに創る「Discovery」モデルへの転換を掲げ、同領域の企業のM&Aを積極的に進める方針も示している。

開示資料は本件の狙いとして、コンシェルジュ型のEC支援能力の獲得、推し活・キャンペーンECでの推しカルチャー&ゲーム事業とのシナジー、大手企業を中心とした顧客基盤と専門人材の確保を挙げる。同日にはフルバランスの子会社化を機に、推し活・ブランドECに特化した「ECコンシェルジュチーム」を立ち上げることも発表した。

アピリッツの和田CEOは補足リリースで、AIの台頭により「労働集約型のシステム開発会社では、生き残っていくのが難しい時代」になったと述べている。要件を一から聞いて開発する受託モデルではなく、Shopifyのアプリを組み合わせて即時に最適なECを提案・提供するサービスへ移ろうとしている。フルバランスの買収は、その転換を実行できる人材とノウハウを外から取り込む手段と位置づけられる。

今後の注目ポイント

第一に、フルバランスの業績の持続性である。2025年3月期の黒字が一過性でないかは、第3四半期以降の連結決算や、のれんの計上額、償却年数の開示で確認できる。

第二に、人材の定着だ。対象会社の価値は、Shopify Platinum Partnersの認定を支える技術者と、エンタープライズ顧客との関係にある。開示資料は代表取締役が経営に関与し続けるとしており、原田代表の続投は安心材料だ。一方、40%を持っていた創業者の角間氏の今後の関与については記載がない。

第三に、推しカルチャー&ゲーム事業との具体的なシナジーである。「ECコンシェルジュチーム」がアピリッツの既存顧客にどれだけ案件を広げられるかが、買収の成果を測る目安になる。

まとめ:小規模M&Aは「どの物差しで測るか」で評価が変わる

本件は、純資産の約12.6倍、直近期の純利益の約6.1倍という、物差しによって評価が大きく変わる価格の案件である。設備を持たない受託開発会社では利益倍率のほうが実態に近いが、その利益は黒字化1期目の数字であり、持続性の検証が欠かせない。さらに、取引費用が株式価額の約4分の1に達する点は、小規模M&Aに共通する現実だ。

2期連続の赤字を抱えながら黒字の会社を取り込んだ売れるネット広告社グループによる国際漢方研究所の子会社化も、買い手の財務状況と買収判断の関係を考えるうえで比較材料になる。事業会社が手放した小規模なSaaS事業を取り込んだクックビズによるTECH CREWの子会社化も、小規模案件での価格の読み方という点で参考になる。

引用元

一次情報

株式会社アピリッツ「株式会社フルバランスの株式取得(完全子会社化)に関するお知らせ」(2026年6月29日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260629/140120260625580299.pdf

株式会社アピリッツ「推し活・ブランドECに最適な機能を即時用意する『ECコンシェルジュチーム』の立ち上げ及びShopify最上位パートナーである株式会社フルバランスの株式取得(完全子会社化)に関するお知らせ」(2026年6月29日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260629/140120260626582437.pdf

株式会社アピリッツ「2027年1月期 第2四半期(中間期)及び通期業績予想の修正に関するお知らせ」(2026年9月9日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260909/140120260902530567.pdf

株式会社アピリッツ IRニュース
https://appirits.com/ir/irnews.html

ディスクロージャー

本記事は、株式会社アピリッツが公表した適時開示資料をもとに作成した分析・見解です。特定の有価証券への投資を勧誘・推奨するものではありません。1株あたり価額・PBR・利益倍率・費用比率など、開示数値から筆者が算出した部分や推測を含み、その旨を本文中に明記しています。投資判断やM&A実務の検討にあたっては、必ず一次情報をご確認のうえ、公認会計士・弁護士・M&Aアドバイザー等の専門家にご相談ください。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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