伊藤ハム米久HDはなぜ利益が減るGreenleaを760億円で買ったのか——子会社ANZCOを通じたNZ同業買収、営業利益14.5倍の価格を読む

伊藤ハム米久HD × Greenlea 完全子会社化
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伊藤ハム米久ホールディングス(東証プライム、証券コード2296)は2026年6月18日、ニュージーランドの連結子会社ANZCO Foods Limited(以下ANZCO)を通じて、同国の食肉処理加工販売会社Greenlea Group Limited(以下Greenlea)の全株式を取得すると発表した。取得価額は企業価値ベースで約800百万ニュージーランドドル(約760億円、1NZドル=95円換算)。株式譲渡は当初8月末の予定だったが、9月30日に完了した。

Greenleaは売上高こそ伸びているものの、営業利益は3期続けて減っている。本記事では、価格の水準と利益の推移、伊藤ハム米久の財務に対する規模感、子会社ANZCOを通じた同業買収の意味を、開示資料と決算短信から整理する。

※情報基準日:2026年10月4日(2026年9月30日公表の取得完了開示を反映)

案件概要

項目 内容
買手(開示会社) 伊藤ハム米久ホールディングス株式会社(東証プライム、2296)
取得実行会社 ANZCO Foods Limited(伊藤ハム米久HDの100%子会社)
対象会社 Greenlea Group Limited(ニュージーランド・ハミルトン、1982年設立)
事業内容 食肉処理加工販売事業
売手 Egan家の信託・個人株主(いずれも伊藤ハム米久との資本・人的・取引関係なし)
取得比率 100%(44,122,390株)
取得価額 約800百万NZドル(約760億円)。企業価値ベースの金額で、最終的な譲渡価格は完了日の純有利子負債と運転資本に基づく調整で確定
日程 取締役会決議・株式売買契約締結2026年6月18日、株式譲渡実行は8月末予定(ニュージーランド当局等の認可・承認が前提)、9月30日に完了

Greenleaの業績:増収でも営業利益は3期連続で減少

決算期(百万NZドル) 2023年9月期 2024年9月期 2025年9月期
連結売上高 574 553 615
連結営業利益 81 67 55
連結当期純利益 62 51 43
連結純資産 219 190 197
連結総資産 252 224 234

2025年9月期の売上高は約584億円、営業利益は約52億円にあたる(1NZドル=95円で筆者換算)。売上高は2025年9月期に増えた一方、営業利益率は約14.1%から約12.1%、約8.9%へと下がり続けている(筆者試算)。利益の減少が原料となる家畜の調達価格によるものか、販売価格や為替によるものかは、開示からは分からない。

もう一つの特徴は、負債が少ないことだ。2025年9月期の総資産234百万NZドルに対して純資産は197百万NZドルで、負債は37百万NZドルにとどまる。このため、企業価値ベースの800百万NZドルと、実際に株主に支払う株式価値との差は小さいとみられる。

価格の水準

企業価値800百万NZドルを各指標で割ると、次のようになる(いずれも筆者試算)。

営業利益(2025年9月期55百万NZドル)に対して
約14.5倍。3期前の営業利益81百万NZドルで計算すると約9.9倍で、どの年の利益を基準にするかで印象は大きく変わる。

純利益(43百万NZドル)に対して
約18.6倍。負債が少ないため、株式価値ベースでもおおむね近い水準になると考えられる。

純資産(197百万NZドル)に対して
約4倍。取得価額の大部分は、純資産を超える部分になる。

最後の点は、伊藤ハム米久の会計に影響する。日本基準ではのれんを毎期償却する。取得原価の配分(土地・設備や顧客関係などの評価)が終わるまで正確な額は分からないが、仮に株式価値と純資産の差の多くがのれんになれば、その額は数百億円規模になり得る。伊藤ハム米久の2026年3月末ののれんは136億円で、これを大きく上回る可能性がある(筆者の推定)。

伊藤ハム米久にとっての規模

伊藤ハム米久の2026年3月末の自己資本は2,947億円で、760億円はその約26%にあたる。2027年3月期の会社予想(親会社株主に帰属する当期純利益185億円、Greenleaの取得は織り込んでいない)の約4倍でもある(いずれも筆者試算)。同社にとって大型の投資である。

資金の調達方法は開示されていない。会社は、2027年3月期の業績への影響を精査中とし、業績予想の修正が必要になれば公表するとしている。9月30日の完了開示の時点でも、修正は公表されていない。

なぜANZCOを通じて買うのか

開示によれば、Greenleaは子会社ANZCOと同じニュージーランドの食肉処理加工販売会社で、事業の補完性が高くシナジーが大きいと判断した。2024年5月に公表した「長期経営戦略2035」で掲げる海外事業の成長加速と収益拡大の一環である。

ANZCOは伊藤ハム米久の海外食肉事業の中心で、2027年3月期第1四半期の決算短信では、北米向け牛肉の販売価格上昇と、欧州・北米向け羊肉の販売好調により経常利益が増えたと説明されている。同じ国の同業を、現地子会社が買う形である。

筆者は、この形の利点を二つ見ている。一つは、統合を担うのが現地の業界を知るANZCOであること。もう一つは、処理場や販売先の重なりを見極めたうえで統合を進められることだ。ただし、開示はシナジーの中身や金額を示していない。同業の統合であるだけに、どこまで効率化できるかが投資回収の鍵になる。

今後の注目ポイント

最終的な譲渡価格とのれん
企業価値ベースの800百万NZドルが、純有利子負債と運転資本の調整でどう確定するか。のれんの額と償却年数が決まれば、毎期の利益への負担が見えてくる。

営業利益の反転
3期続いた営業利益の減少が止まるかどうか。買収価格の妥当性は、利益がどの水準に戻るかで変わる。

業績予想への反映
取得完了後の連結決算で、売上高と利益がどれだけ増えるか。業績予想の修正があるかを確認したい。

まとめ:利益が下がっている同業を、現地子会社が買った

伊藤ハム米久は、子会社ANZCOを通じてニュージーランドの同業Greenleaを約760億円で完全子会社にした。価格は直近の営業利益の約14.5倍で、Greenleaの営業利益は3期連続で減っている。負債が少ないため取得価額の多くが純資産を上回る部分となり、日本基準ではその多くがのれんとして償却される見込みだ。統合による効率化と利益の回復で、この価格を正当化できるかが問われる。

海外の生産拠点を持つ会社を取り込んだ例としては、アイカ工業によるインドStylamの連結子会社化がある。海外の同業を買い、持分の持ち方を工夫した阪和興業による米国ASGの買収も比較材料になる。

引用元

一次情報

伊藤ハム米久ホールディングス株式会社「連結子会社の異動を伴う株式取得に関するお知らせ」(2026年6月18日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260618/140120260617573135.pdf

伊藤ハム米久ホールディングス株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年8月3日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260803/140120260731505928.pdf

伊藤ハム米久ホールディングス株式会社「(開示事項の経過)連結子会社の異動を伴う株式取得完了に関するお知らせ」(2026年9月30日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260930/140120260930543162.pdf

ディスクロージャー

本記事は、伊藤ハム米久ホールディングス株式会社が公表した適時開示資料・決算短信をもとに作成した分析・見解です。特定の銘柄への投資を勧誘・推奨する目的のものではありません。円換算額は開示資料の換算レート(1NZドル=95円)によります。利益倍率、のれんの規模、財務への影響など、開示数値から筆者が算出した部分や推測を含み、その旨を本文中に明記しています。投資判断にあたっては、必ず一次情報をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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