東レ(東証プライム、証券コード3402)は2026年5月29日、66%を保有する子会社の曽田香料株式会社について、34%を持つ三井物産と共に全株式を売却すると発表した。買い手は、韓国のサムヤンコーポレーション(Samyang Corporation)が設立した子会社の株式会社三養社日本。譲渡価額は企業価値ベースで410億円で、株式譲渡は2026年7月1日に完了した。
曽田香料は1915年設立の香料メーカーである。東レは売却の理由を「ベストオーナー視点に基づく事業ポートフォリオ再構築」と説明している。本記事では、売却の条件と東レの業績への影響、曽田香料の資産規模から見た価格の水準を、開示資料と決算短信から整理する。
※情報基準日:2026年10月5日(2026年8月6日公表の2027年3月期第1四半期決算短信を反映)
目次
案件概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 売手 | 東レ株式会社(66%、198株)、三井物産株式会社(34%、102株) |
| 対象会社 | 曽田香料株式会社(東京都中央区、1915年4月設立、資本金1,490百万円、従業員509名(連結)・345名(単体)、2026年3月末) |
| 事業内容 | 各種香料・香料関連品の製造及び販売 |
| 買手 | 株式会社三養社日本(Samyang Corporation Japan, Inc.、Samyang Corporationが設立した子会社) |
| 譲渡価額 | 企業価値410億円(完了時の純有利子負債や運転資本等の調整を経て、実際の譲渡価額を確定) |
| 日程 | 株式譲渡契約締結2026年5月29日、株式譲渡完了2026年7月1日(当初予定は2027年3月期上半期中) |
| 東レの業績への影響 | 売却益約80億円(税引後)を2027年3月期中間期に計上する見込み。5月13日公表の通期予想に織り込み済み |
株式譲渡は関係当局の承認などを条件に「2027年3月期上半期中」の完了を予定していたが、実際には契約から約1か月後の7月1日に完了した。第1四半期決算短信がこの完了を明記している。手続上の大きな障害はなかったとみられる。
買い手の親会社であるSamyang Corporationについて、東レの開示は、本社をソウル特別市に置き、化学(エンジニアリングプラスチック)と食品(糖類他)を手がける会社と説明している。
曽田香料は東レのどこにあったのか
第1四半期決算短信によると、曽田香料は東レの「機能化成品事業」に属する子会社だった。同セグメントは樹脂、フィルム、ファインケミカル、電子情報材料などを含み、第1四半期の売上収益は2,551億円にのぼる。
東レは2026年6月末時点で、曽田香料の資産27,303百万円と負債7,665百万円を「売却目的で保有する資産」とこれに直接関連する負債に分類した。差し引き約196億円が、売却直前の曽田香料の純資産の目安になる(筆者試算)。資産には現金及び現金同等物4,303百万円が含まれる。東レの連結総資産3兆4,921億円から見ると、曽田香料の資産は1%に満たない(筆者試算)。
開示資料には曽田香料の売上高や利益が載っていないため、事業の収益力から価格を評価することはできない。この記事では、確認できる資産の数字を手がかりにする。
価格の水準:企業価値410億円は純資産の約2倍
企業価値410億円は、売却目的保有に分類された純資産約196億円の約2.1倍にあたる(筆者試算)。企業価値は有利子負債などを含む金額で、株主に支払われる実際の譲渡価額は完了時の調整で決まるため、厳密な比較ではない。それでも、帳簿上の純資産を大きく上回る価格で売れたことは読み取れる。
東レは売却益を約80億円(税引後)と見込んでいる。2027年3月期の親会社の所有者に帰属する当期利益の通期予想900億円に対して、約9%に相当する(筆者試算)。一度きりの利益ではあるが、東レの業績予想の中で無視できない大きさである。
なぜ「三井物産と一緒に」売ったのか
曽田香料の株主は東レと三井物産の2社だけで、今回は両社がそろって全株式を手放した。買い手は100%を取得できるため、残る少数株主との調整が要らない。筆者は、共同で売却したことが買い手にとっての価値を高め、価格面でも有利に働いたとみている。ただし、価格交渉の経緯は開示されていない。
東レは中期経営課題「IGNITION 2028」で、ROICを上位概念とした成長戦略と構造改革を掲げ、事業ポートフォリオの最適化による資本効率の向上を重要課題としている。香料は、繊維、樹脂・フィルム、炭素繊維、水処理といった東レの主力事業とは性格が異なる。より適した持ち主に任せ、資本を主力事業に振り向けるという説明は、この方針と一致している。
買い手サムヤン側の意味
サムヤンは食品(糖類他)と化学の両方を手がけており、香料は食品向けにも使われる。筆者は、日本の老舗香料メーカーを取り込むことで、食品分野の製品や顧客基盤を広げる狙いがあるとみている。ただし、サムヤン側の買収目的や今後の方針は、東レの開示には書かれていない。
東レは開示で、曽田香料の従業員の雇用と処遇の維持が重要であるとの認識のもと、譲受先と十分に協議したと明記している。経営体制や拠点の扱いがどうなるかは、今後の公表を待つ必要がある。
今後の注目ポイント
売却益の確定額
東レは中間期に約80億円(税引後)の売却益を計上する見込みとしている。今後公表される中間決算で、実際の譲渡価額と売却益の確定額を確認したい。
売却資金の使い道
IGNITION 2028で掲げる成長投資や株主還元に、売却で得た資金がどう振り向けられるか。
次の事業整理
東レは今後も経営資源の最適化を進めるとしており、ほかの事業でも同様の整理が続くかが注目される。
まとめ:主力事業と性格の違う子会社を、高値で手放す
東レは三井物産と共に、111年の歴史を持つ曽田香料を企業価値410億円で韓国サムヤンの日本子会社に売却し、7月1日に完了させた。価格は売却直前の純資産の約2倍で、東レは約80億円(税引後)の売却益を見込む。香料は東レの主力事業と性格が異なり、ROICを重視する中期経営課題に沿った整理といえる。売却資金を主力事業の成長にどうつなげるかが、この判断の評価を決める。
事業会社が本業と離れた事業を外部に売却した例としては、日清紡HDによる成形品事業のPEファンドへの譲渡がある。逆に、赤字の子会社を売らずに吸収したヤマハ発動機によるYMPCの吸収合併と比べると、ポートフォリオ整理の手法の違いが見えてくる。
引用元
一次情報
東レ株式会社「曽田香料株式会社の株式譲渡について」(2026年5月29日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260529/140120260529555082.pdf
東レ株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年8月6日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260806/140120260805510168.pdf
ディスクロージャー
本記事は、東レ株式会社が公表した適時開示資料・決算短信をもとに作成した分析・見解です。特定の銘柄への投資を勧誘・推奨する目的のものではありません。純資産に対する倍率や業績への影響の比率など、開示数値から筆者が算出した部分や推測を含み、その旨を本文中に明記しています。投資判断にあたっては、必ず一次情報をご確認のうえ、専門家にご相談ください。