サイバー・バズ、ふるさと納税のアース社買収

PR

株式会社サイバー・バズ(東証グロース、7069)は2026年10月16日、熊本県玉名市の株式会社アースコーポレーションと、同県南関町の株式会社ワンエイトの全株式を取得し、子会社化すると発表した。株式取得額は2社合計で約5億円で、これとは別に、業績に応じて追加で支払う条件付取得対価(アーンアウト)を設けている。

アース社は全国の自治体からふるさと納税の運営業務を受託する会社で、ワンエイト社は地域の農産品を加工・商品化して返礼品やECで販売する地域商社である。両社は同じ松川家が保有し、一体で運営されてきた。サイバー・バズはインフルエンサーを使ったソーシャルメディアマーケティングを主力としている。

本記事では、買収価格がアース社の利益・純資産に対して何倍か、売上の計上方法の違いで事業規模の見え方がどう変わるか、アーンアウトとのれんがサイバー・バズの財務にどの程度の重さを持つかを計算する。

※情報基準日:2026年10月16日。数値は同日付のサイバー・バズ開示資料、同社2026年9月期第3四半期決算短信による。

取引条件

項目 アースコーポレーション ワンエイト
事業 ふるさと納税支援、地域ブランディング 地域商社(農産品の加工・販売)
売り手 マツカワホールディングス(松川和男氏90%) 松川和男氏
取得株式 3,000株(100%) 60株(100%)
株式取得価額 471百万円 29百万円
アドバイザリー費用等 80百万円(2社合計の概算) ―
アーンアウト 3期間、各社EBITDAの2分の1が上限 同左
株式譲渡実行日 2026年10月31日(予定) 同左
資金 手元資金と借入金 同左

2社の株式取得価額は合計約500百万円、アドバイザリー費用等を含めると約580百万円になる(筆者計算)。アドバイザリー費用等の80百万円は株式取得価額の約16%で、案件規模に対して比率は高い。

松川和男氏は、取得後1年間はアース社の非常勤取締役、その後1年間は顧問として事業の引継ぎにかかわる。

アース社の価格は高いか

利益と純資産に対する倍率

指標 2026年5月期実績 2027年5月期計画
当期純利益 40.6百万円 70.9百万円
株式取得価額/純利益(PER) 約11.6倍 約6.7倍
営業利益 37.6百万円 116.2百万円
株式取得価額/営業利益 約12.5倍 約4.1倍
純資産 77.7百万円 ―
株式取得価額/純資産(PBR) 約6.1倍 ―

(株式取得価額471百万円で筆者計算)

実績ベースのPERは約11.6倍で、上場している中小型のマーケティング・サービス会社と比べて極端に高い水準ではない。計画ベースでは約6.7倍まで下がる。価格の妥当性は、2027年5月期に営業利益を約3倍に伸ばす計画が実現するかどうかにかかっている。

PBRは約6倍で、純資産に比べて大きく上乗せした価格である。ふるさと納税の運営受託は設備をあまり必要としない事業のため、価値の大半は自治体との契約と運営ノウハウにある。

利益は2026年5月期に半減

決算期 2024年5月期 2025年5月期 2026年5月期
売上高(総額) 1,379百万円 2,197百万円 2,968百万円
営業利益 55.2百万円 83.8百万円 37.6百万円
当期純利益 37.8百万円 55.5百万円 40.6百万円
配当総額(筆者計算) 30.0百万円 30.0百万円 58.0百万円
純資産 49.6百万円 95.2百万円 77.7百万円

売上高は2年で2倍以上になった一方、2026年5月期の営業利益は前期の83.8百万円から37.6百万円へ約55%減った(筆者計算)。減益の理由は開示されていない。

2026年5月期の配当は1株19,333.33円で、3,000株に掛けると約58百万円になり、当期純利益40.6百万円を上回る(筆者計算)。純資産は95.2百万円から77.7百万円に減った。売却の直前期に、利益を超える配当で純資産を外に出していることになる。 オーナー企業の売却前には珍しくない動きだが、買い手から見れば、PBRが高く見える一因でもある。

売上は「総額」か「純額」か

アース社の売上高は、返礼品の売却収入を売上高に、返礼品の仕入原価を売上原価に含めた総額で計上されている。開示資料は、売却収入から仕入原価を差し引いた純額で計上した場合の概算も示している。

項目 総額表示 純額表示
2026年5月期売上高 2,968百万円 1,050百万円
2027年5月期計画売上高 3,550百万円 1,250百万円
2026年5月期営業利益率 約1.3% 約3.6%
2027年5月期計画営業利益率 約3.3% 約9.3%

(営業利益は総額・純額で変わらない。利益率は筆者計算)

同じ事業でも、総額で見ると売上約30億円、純額で見ると約10億円で、規模は約3倍違う。

サイバー・バズの2026年9月期の連結売上高予想は8,200百万円である。アース社の2027年5月期計画を総額で足せば連結売上は4割強増えて見えるが、純額なら約15%増にとどまる(筆者計算)。収益認識の基準上、返礼品の取引で本人と代理人のどちらに当たるかによって計上方法が決まる。開示資料が純額の数字をあえて併記しているのは、連結後に純額で計上する可能性を示しているとも読める。売上高の成長率でサイバー・バズを見る投資家にとっては、計上方法の確認が欠かせない。

ワンエイトは債務超過の会社

ワンエイト社は2026年5月期に営業損失27.6百万円を計上し、純資産は△11.3百万円の債務超過である。それでも株式は28.7百万円で取得される。

ワンエイト社の2027年5月期計画の営業利益は0.9百万円とほぼ収支均衡で、単体の収益力に価値を見いだした価格ではない。開示資料は、ワンエイト社をアース社のふるさと納税支援事業とシナジーを生む「戦略拠点」と位置づけている。返礼品を自ら加工・商品化する機能を持つことで、自治体に提案できる返礼品の幅が広がる。両社は株主が同じで一体運営されてきたため、アース社だけを切り離して買う選択肢は現実的でなかったとみられる。

アーンアウトとのれんの重さ

利益の半分を3年間払う設計

両社の株式譲渡契約は、2026年10月1日から2029年9月30日までの3つの対象期間について、各社のEBITDAの2分の1を上限に、実績に応じた金額を売り手に追加で支払うと定めている。

EBITDAは開示されていないが、仮にアース社のEBITDAが2027年5月期計画の営業利益と同程度の約1.2億円で3年続けば、アーンアウトの上限は年約0.6億円、3年で約1.7億円になる(筆者試算。減価償却費やワンエイト社分は含まない)。その場合、アース社の取得総額は約6.5億円まで膨らむ。

利益が出るほど支払いが増え、出なければ払わない。計画の実現に自信がある売り手と、計画の達成度に不安がある買い手の間を埋める仕組みである。松川氏が2年間引継ぎにかかわる設計と合わせ、計画達成への関与を売り手に促す狙いがあると考えられる。

のれんは自己資本の約半分

2社の株式取得価額約500百万円に対し、2社の純資産の合計は約66百万円(アース社77.7百万円、ワンエイト社△11.3百万円)である。差額の約434百万円が、取得原価の配分前ののれんの目安になる(筆者計算。アドバイザリー費用は会計上、取得原価に含まれない)。

項目 金額
サイバー・バズの自己資本(2026年6月末) 945百万円
アドバイザリー費用込みの取得総額(概算) 約580百万円
自己資本に対する比率 約61%
のれんの目安 約434百万円
自己資本に対する比率 約46%

(筆者計算)

サイバー・バズの自己資本比率は2026年6月末で27.8%である。取得資金の一部を借入金で賄うため、総資産と負債が膨らみ、自己資本比率は下がる方向に働く。アース社の利益が計画を下回れば、自己資本の半分近いのれんが減損の対象になる。

なぜサイバー・バズがふるさと納税なのか

サイバー・バズは2022年9月にライブ配信プラットフォームのWithLIVEを買収し、2026年9月期にはHR事業の子会社BuzzJobを経営陣による買収(EBO)で売却した。2026年9月期からは事業投資・M&A向けの戦略投資予算を設けている。今回の買収はこの事業入れ替えの流れの中にある。

開示資料は、ふるさと納税の市場規模が2025年度に1兆3,000億円を超えると推計される一方、控除適用者数は1,000万人強にとどまるとし、規制の見直しにより返礼品そのものの魅力や自治体ごとの付加価値がより重要になると説明している。2025年10月からは仲介サイトによるポイント付与が禁止されており、ポイント還元での寄附獲得競争から、返礼品と自治体の発信力での競争に移りつつある。

サイバー・バズのインフルエンサー網とSNSマーケティングは、この「発信力」の部分に当てはまる。アース社が持つ全国の自治体との契約と生産者とのつながりに、サイバー・バズのプロモーション機能を上乗せできれば、自治体向けのシティプロモーションや返礼品の販路開拓という新しいサービスが生まれる、というのが会社の説明である。

一方で、ふるさと納税は制度変更の影響を直接受ける事業でもある。アース社の売上の大半は自治体の受託業務に依存しており、制度の見直しが続けば収益が左右される。

日程

日付 内容
2026年10月16日 取締役会決議・契約締結
2026年10月31日 株式譲渡実行(予定)
2026年11月12日 2027年9月期連結業績予想の開示(予定、本件の影響を織り込む)
2027年9月期第1四半期 両社を連結
2027年6〜9月 アース社の決算期をサイバー・バズに合わせて変更(4か月の変則決算)

計画の3倍増を、アーンアウトで分け合う

サイバー・バズは、ふるさと納税支援のアース社と地域商社のワンエイト社を、株式取得価額約5億円、費用込みで約5.8億円で買う。アース社の価格は実績PER約11.6倍、計画PER約6.7倍で、2027年5月期の営業利益を約3倍に伸ばす計画が前提になっている。

計画が実現すれば割安な買い物になり、実現しなければ自己資本の半分近いのれんを抱える。 その振れ幅を、EBITDAの半分を3年間支払うアーンアウトで売り手と分け合う設計である。

株主が確認すべきなのは、11月12日に公表される2027年9月期の業績予想で、アース社の売上が総額と純額のどちらで連結されるのか、そしてアーンアウトの見積額がいくらになるのかである。

非上場の小規模企業を高いPBRで取得した事例は、以下の記事でも取り上げている。

アピリッツ、Shopify上位パートナーのフルバランスを完全子会社化——PBR12.6倍・PER6倍の価格をどう読むか
https://assetsalon.online/appirits-fullbalance-shopify-ec-acquisition-2026/

ニフティライフスタイル、レプリスを16.6億円で完全子会社化——利益率20%超のライフライン取次をPER約17倍で取得
https://assetsalon.online/niftylifestyle-repuris-kabushikishutoku/

引用元

一次情報

株式会社サイバー・バズ「株式会社アースコーポレーション及び株式会社ワンエイトの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」(2026年10月16日、TDnet)

株式会社サイバー・バズ「2026年9月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年8月13日)
https://www2.jpx.co.jp/disc/70690/081220260812518600_tse-qcedjpsm-70690-20260813370690-ixbrl.htm

株式会社サイバー・バズ 企業サイト
https://www.cyberbuzz.co.jp/

ディスクロージャー

本記事は株式会社サイバー・バズの適時開示資料と決算短信をもとにした分析です。各種倍率、配当総額、利益率、のれんの目安、アーンアウトの試算額は開示数値から筆者が計算・試算したもので、実際の会計処理や支払額とは異なる可能性があります。買収の狙いや今後の展開に関する記述は、開示資料に明示されていない筆者の解釈を含みます。特定銘柄の売買を勧めるものではありません。判断にあたっては一次情報を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

シェアする