アシックスはなぜオニツカタイガーを売らずに分社するのか——カテゴリー利益の約4分の1を稼ぐ事業をOT GROUPへ切り出す簡易吸収分割を読む

アシックス × OT GROUP オニツカタイガー事業の分社
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アシックス(東証プライム、証券コード7936)は2026年6月10日、オニツカタイガーブランドの事業を、100%子会社の株式会社OT GROUPに吸収分割で移すと発表した。効力発生は2027年1月1日の予定。あわせて、各国の地域事業会社が手がけるオニツカタイガー事業も切り出し、OT GROUPの子会社として再編する方針を決めた。

オニツカタイガーは、アシックスの中で利益率が最も高いカテゴリーである。売却ではなく、100%子会社として切り出す。この再編は何を変え、何を変えないのか。開示資料と決算短信の数字から整理する。

※情報基準日:2026年10月4日(2026年6月10日の開示と2025年12月期決算短信を反映)

案件概要

項目 内容
分割会社 株式会社アシックス(東証プライム、7936)
承継会社 株式会社OT GROUP(アシックスの100%子会社、東京都港区、2026年2月25日設立、資本金376百万円、代表取締役社長CEO 庄田良二氏)
スキーム 簡易吸収分割(アシックス側は会社法784条2項により株主総会の承認を省略)
対価 OT GROUPが普通株式400株を発行し、すべてアシックスに交付
承継する資産・負債 資産2,710百万円(すべて固定資産)、負債248百万円(2026年3月31日現在の帳簿価額)
日程 取締役会決議2026年6月10日、吸収分割契約締結10月1日(予定)、OT GROUPの株主総会11月16日(予定)、効力発生2027年1月1日(予定)
連結業績への影響 軽微(開示資料)

開示資料によれば、OT GROUPはオニツカタイガー事業のグローバル本社になり、その下に販売・製造などを担う子会社を置く。展開国は約160か国、直営店舗は約190店舗、従業員は約2,800名(いずれもグループ全体)である。

「売上高66.6億円」は事業の規模ではない

開示資料には、分割する事業の売上高として6,663百万円(2025年12月期、アシックス単体)が載っている。ただし注記にあるとおり、これはアシックスが各国の地域事業会社から受け取るロイヤリティなどの金額だ。オニツカタイガー事業の実際の規模は、決算短信のカテゴリー別業績で確認できる。

オニツカタイガー(百万円) 2024年12月期 2025年12月期 増減率
売上高 95,439 136,519 +43.0%
カテゴリー利益 32,435 51,489 +58.7%

カテゴリー利益率は37.7%で、決算短信は「高水準圏で成長を維持」と説明している。アシックス全体の売上高8,109億円に占める比率は約17%だが、5つのカテゴリー利益の合計2,016億円に占める比率は約26%になる(筆者試算、カテゴリー利益は全社費用を配分する前の数値)。2026年12月期の会社計画では、オニツカタイガーの売上高を1,520億円(前期比11.3%増)と見込んでいる。

この事業は、ロイヤリティの形でアシックス単体に入り、実際の販売は各国の地域事業会社が担っている。今回の吸収分割で移るのは、そのうちアシックス本体が持つ部分である。承継資産に流動資産がなく固定資産だけである点は、移る中身が在庫や売掛金ではなく、ブランドに関わる権利や契約関係が中心であることをうかがわせる(筆者の推定)。

なぜ「簡易」吸収分割になるのか

会社法784条2項では、承継させる資産の帳簿価額が分割会社の総資産額の5分の1を超えない場合、分割会社の株主総会決議を省略できる。承継資産2,710百万円は、アシックス単体の2025年12月末の総資産170,921百万円の約1.6%にすぎない(筆者試算)。売上規模が1,365億円の事業であっても、本体から移る帳簿上の資産は小さいため、簡易手続の要件を大きく下回る。

手続面では、株主総会の承認が必要なのは承継会社のOT GROUP側だけで、その株主はアシックス1社である。グループ内の再編であり、アシックスの株主構成や連結の範囲は変わらない。

再編の狙い:独立した運営と、事業ごとの見える化

開示資料は目的を二つ挙げている。一つは、オニツカタイガー事業を独立性の高い運営体制に移し、意思決定を速め、ブランド特性に応じた競争力をつくること。もう一つは、アシックスグループ全体で、事業ごとの経営状況を見えやすくし、経営責任を明確にすることだ。

オニツカタイガーは「ラグジュアリーライフスタイルブランド」としての地位確立を掲げ、直営店を中心に展開している。2025年にはバルセロナ、ロンドン、パリに大規模な直営店を開き、2026年1月には鳥取県境港市の工場が稼働した。2026年は欧州での地位固めに加え、2027年以降の米国への再進出を見据えた検討を進めるとしている。

筆者は、この再編の意味を「法人として切り出すことで、事業の資産・負債・損益が一つの会社にまとまる」点に見ている。これまでアシックス本体と各国の会社に分かれていた事業が、OT GROUPを頂点とする一つのグループになれば、投下資本と利益の関係を単独で評価しやすくなる。アシックスは8月、ウォーキング事業の強化に向けてアシックス商事の解散・清算方針も決めており、事業ごとに体制を組み直す動きが続いている。

なお、OT GROUPの将来の株式売却や上場について、アシックスは何も開示していない。100%子会社として切り出したことで手続上の選択肢は広がるが、それをどう使うかは現時点では分からない。

今後の注目ポイント

各国事業の移管の進み方
今回の吸収分割は日本の本体部分であり、各国の地域事業会社のオニツカタイガー事業をOT GROUPの下に移す作業はこれからである。どの国から、どのような方法で移すかが次の開示事項になる。

開示の変化
再編後、オニツカタイガーの投下資本や利益がどこまで細かく開示されるか。事業ごとの見える化という目的が、投資家向けの情報にどう反映されるかを見たい。

成長率の鈍化
2025年12月期に43%伸びた売上高は、2026年12月期の計画では11%増にとどまる。独立した運営体制で成長を再加速できるかが問われる。

まとめ:売らずに切り出す、グループ内の再編

アシックスは、カテゴリー利益の約4分の1を稼ぐオニツカタイガーを、売却ではなく100%子会社のOT GROUPに切り出す。本体から移る資産は帳簿上27億円にすぎず、簡易吸収分割で進められる。狙いは、ブランドに合った意思決定の速さと、事業ごとの経営の見える化だ。各国事業の移管と、その後の開示の充実によって、この再編の成果を評価できるようになる。

事業をグループの中で組み替えた例としては、ヤマハ発動機によるYMPCの吸収合併がある。逆に事業を外に出した日清紡HDによる成形品事業の譲渡と比べると、切り出し方の違いが見えてくる。

引用元

一次情報

株式会社アシックス「連結子会社との会社分割(簡易吸収分割)及び子会社の再編方針決定に関するお知らせ」(2026年6月10日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260610/140120260610566948.pdf

株式会社アシックス「2025年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年2月13日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260213/140120260212556607.pdf

株式会社アシックス「連結子会社の解散及び清算(方針)に関するお知らせ」(2026年8月14日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260814/140120260813520057.pdf

ディスクロージャー

本記事は、株式会社アシックスが公表した適時開示資料・決算短信をもとに作成した分析・見解です。特定の銘柄への投資を勧誘・推奨する目的のものではありません。カテゴリー利益の構成比や簡易分割の比率など、開示数値から筆者が算出した部分や推測を含み、その旨を本文中に明記しています。投資判断にあたっては、必ず一次情報をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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