TBSはなぜU-NEXT株を200億円で買ったのか——創業者から取得した8%と「支配しない」資本業務提携

TBSホールディングス(東証プライム、証券コード9401)は2026年6月26日、U-NEXT HOLDINGS(同9418)と資本業務提携の契約を結ぶと発表した。資本面では、U-NEXT HOLDINGSの代表取締役社長CEOである宇野康秀氏が保有する同社株式11,627,900株を、市場外の相対取引で取得する。取得総額は19,999,988,000円(1株1,720円)で、TBSの保有比率は1.58%から8.03%に上がる。株式の受け渡しは7月3日の予定とされていた。

約200億円という金額は大きいが、TBSが手にするのは議決権の1割に満たない持分だ。しかも売り手は会社ではなく、創業者である宇野氏個人である。U-NEXT HOLDINGSには新たな資金は入らない。本記事では両社の開示資料をもとに、この取引が何を買い、何を買わなかったのかを整理する。

※情報基準日:2026年10月4日(6月26日の両社開示に基づく。株式の受け渡し予定日は2026年7月3日)

案件概要

項目 内容
開示会社 株式会社TBSホールディングス(東証プライム、証券コード9401)/株式会社U-NEXT HOLDINGS(証券コード9418)
内容 資本業務提携契約の締結、および宇野康秀氏からのU-NEXT HOLDINGS株式の取得
売手 宇野康秀氏(U-NEXT HOLDINGS代表取締役社長CEO、個人)
取得株式数 11,627,900株(発行済株式の6.45%)
価格 1株1,720円、総額19,999,988,000円(当事者間の協議で決定)
取得後の保有 14,486,300株、持株比率8.03%(取得前は2,858,400株・1.58%)
日程 契約締結2026年6月26日、株式の受け渡し2026年7月3日(予定)
業績への影響 TBS・U-NEXTとも当期の連結業績への影響は軽微との見込み

U-NEXT HOLDINGS側では、この取引は宇野氏による「株式の売出し」として開示されている。会社が新株を発行するのではなく、既存株主が持ち株を売る取引だ。

3年がかりで深めてきた関係

両社の関係は今回始まったわけではない。TBSは2023年6月29日、U-NEXT HOLDINGSとの間で、子会社U-NEXTの動画配信事業を対象とするパートナーシップ協定を結んだ。TBS、TBSテレビ、U-NEXTの3社間ではコンテンツ調達やマス向けプロモーションに関する業務提携契約もあり、TBSテレビはU-NEXTに取締役1名を派遣している。2026年2月27日には、韓国のCJ ENMを加えた3社で合弁会社を設立すると公表した。

今回の資本業務提携は、こうした協業を資本面でも固める位置づけである。両社の開示が挙げる検討テーマは3つある。第一に、合弁会社を通じたオリジナルコンテンツの創出と流通の強化。第二に、U-NEXT HOLDINGSが店舗向けに展開する映像配信機能付き音楽サービス(BGV)や業務用カラオケ『JOYSOUND』とTBSの映像コンテンツの連携。第三に、U-NEXT HOLDINGSの店舗・施設の顧客基盤や金融・不動産・グローバル事業と、TBSの国内事業基盤との連携である。

TBSは2021年に公表した中長期ビジョン「TBSグループ VISION2030」で、コンテンツを国内外に広げる拡張戦略「EDGE」を掲げている。地上波で放送するだけでなく、配信や海外展開、さらには店舗やカラオケといった放送以外の接点でコンテンツを使う。そのための相手として、配信と店舗向けサービスの両方を持つU-NEXTグループを選んだと読める。

200億円で買ったもの:議決権8%の意味

TBSの持株比率は8.03%で、経営を支配する水準からはほど遠い。U-NEXT HOLDINGSの筆頭株主は株式会社UNO-HOLDINGSで、持株比率は50.09%(2026年2月末)。この構成は今回の取引で変わらない。TBSは影響力のある主要株主の一人にはなるが、U-NEXTの経営判断を左右する立場ではない。

それでも約200億円を投じる意味は、提携の「本気度」を資本で示すことにあると考えられる。業務提携は契約だけでも結べるが、相手の株式を持てば、相手の企業価値が上がるほど自社も利益を得る。コンテンツを提供する側と配信する側の利害を、株主という立場で近づける効果がある。

TBSの規模から見ると、この投資は大きすぎる金額ではない。TBSの2026年3月期の連結純資産は1兆1,353億円で、約200億円はその約1.8%にとどまる。TBSは業績への影響も軽微としている。

価格の水準:1株1,720円は何倍か

U-NEXT HOLDINGSの直近の業績は、3年続けて伸びている。

決算期 2023年8月期 2024年8月期 2025年8月期
連結売上高 276,344百万円 326,754百万円 390,408百万円
連結営業利益 21,565百万円 29,110百万円 31,571百万円
親会社株主に帰属する当期純利益 10,959百万円 15,357百万円 18,395百万円
1株当たり当期純利益 61.05円 85.15円 101.99円
1株当たり純資産 379.67円 453.88円 540.94円

※2024年12月の1対3の株式分割を考慮した1株当たり数値(TBSの開示による)。

売上高は2年で約1.4倍の3,904億円に増え、純利益も約1.7倍になった。1株1,720円は、2025年8月期の1株当たり純利益101.99円の約16.9倍、1株当たり純資産540.94円の約3.2倍にあたる。この価格は当事者間の協議で決めたとされており、市場株価との比較は開示されていない。高い成長を続ける上場会社の株式を、市場を通さずにまとまった量で取得したことになる。

売り手が創業者個人であることの意味

本件の資金の流れは単純だ。TBSが払う約200億円は、宇野氏個人に渡る。U-NEXT HOLDINGSのバランスシートには何も入らない。新株を発行して資金を調達する第三者割当とは、この点で性質が違う。

宇野氏の個人での持株比率は6.95%(2026年2月末)で、今回6.45%分を手放すと0.5%程度になる計算だ。一方で、筆頭株主のUNO-HOLDINGSの50.09%には変化がない。宇野氏個人が持つ株式の大半を事業パートナーに売る一方で、筆頭株主の持分は維持される構図である。

買い手のTBSから見ると、市場で6%超の株式を買い集めれば株価を押し上げ、時間もかかる。創業者個人から相対で一括取得すれば、価格と株数を確定させたうえで一度に持分を高められる。ただし、少数株主から見れば、価格は当事者間の協議で決まっており、市場価格を基準とした説明はない。開示資料だけでは、1,720円が市場株価に対してどの水準だったかは確認できない。

今後の注目ポイント

第一に、合弁会社の具体的な成果である。CJ ENMを加えた3社の合弁会社がどのような作品を、どの地域に、どの形で流通させるのか。資本業務提携の価値は、ここで初めて数字になる。

第二に、BGVやJOYSOUNDとの連携の具体化だ。開示資料は「検討対象」と表現しており、契約の中身はまだ示されていない。放送局の映像コンテンツを店舗やカラオケで使う取り組みが収益につながれば、テレビ局のコンテンツ活用の新しい形になる。

第三に、TBSのU-NEXT株式の保有方針である。8%強の持分は、取得価額と市場価格の差が業績にも影響しうる投資有価証券になる。追加取得や保有の継続について、今後の開示で何が示されるかに注目したい。

まとめ:支配ではなく「関係の固定化」に払った200億円

TBSは約200億円で、U-NEXT HOLDINGSの議決権の8%強を手に入れた。経営権には届かないが、3年前の協定、合弁会社、取締役派遣に続く資本関係で、配信プラットフォームとの関係を固めた形だ。売り手が創業者個人であるため、U-NEXT側に資金は入らず、純粋に株主構成が変わる取引になっている。価格はU-NEXTの直近期の純利益の約17倍で、成長への期待を織り込んだ水準と言える。

経営権を取らない資本業務提携という点では、コーナン商事とバローHDの相互出資も比較材料になる。デジタル事業者が株式取得で事業を広げる例としては、PayPayによるT&Dフィナンシャル生命の取得もある。支配権を取りにいく買収との違いを考えるうえで参考になる。

引用元

一次情報

株式会社TBSホールディングス「株式会社U-NEXT HOLDINGSとの資本業務提携に関するお知らせ」(2026年6月26日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260626/140120260624578542.pdf

株式会社U-NEXT HOLDINGS「株式会社TBSホールディングスとの資本業務提携契約の締結及び当社株式の売出しに関するお知らせ」(2026年6月26日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260626/140120260626581752.pdf

関連情報・報道

マイナビニュース「TBSHD、U-NEXT HOLDINGSと資本業務提携 オリジナルコンテンツの創出・流通力強化へ」
https://news.mynavi.jp/article/20260626-4630978/

ディスクロージャー

本記事は、株式会社TBSホールディングスおよび株式会社U-NEXT HOLDINGSが公表した適時開示資料をもとに作成した分析・見解です。特定の銘柄への投資を勧誘・推奨する目的のものではありません。PER・PBRに相当する倍率や持株比率の変化など、開示数値から筆者が算出した部分や推測を含み、その旨を本文中に明記しています。投資判断にあたっては、必ず一次情報をご確認のうえ、専門家にご相談ください。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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