セプテーニHD、コミスマ株23.3%を15.9億円で全株譲渡へ

デジタルマーケティングのセプテーニ・ホールディングス(東証スタンダード、証券コード4293)は2026年11月5日、持分法適用関連会社コミスマ株式会社の保有株式をすべて売却すると発表しました。コミスマはマンガアプリ「GANMA!」を運営するIPプラットフォーム事業の会社です。売却するのは42,400株(議決権所有割合23.3%)で、譲渡価額は1,590百万円。買い手はベンチャーキャピタル(VC)2社と非上場の事業会社1社の計3者ですが、名称は譲渡先との取り決めにより開示されていません。株式譲渡契約は2026年11月10日、譲渡の実行は11月20日の予定です。

セプテーニHDは2024年3月にコミスマ(当時の社名はコミックスマート)の株式の56.8%をVCに譲渡し、連結子会社から持分法適用関連会社に切り替えていました。今回はその残りを手放すもので、自社で立ち上げたマンガ事業からの撤退が2段階で完了することになります。売却益は税引後で約8.9億円を見込み、2026年12月期第4四半期に計上する予定です。

本稿では、次の3つの問いを一次資料の数字で確かめます。第一に、営業赤字が続くコミスマの株式に付いた1,590百万円という価格は、純資産や売上と比べてどの水準か。第二に、2024年の連結除外から今回の全株売却まで、セプテーニHDの持分はどう変わってきたのか。第三に、売却で得る資金と利益は、セプテーニHDの中期経営計画(FY2026-2028)の資金配分の中でどの程度の重みを持つのか、です。数値は2026年11月5日時点の開示と、それ以前に公表された決算説明資料に基づきます。

取引の全体像:23.3%・42,400株を名称非開示の3者へ、11月20日実行予定

本件は、セプテーニHDが保有するコミスマ株式の全部を、第三者に一括で譲渡する株式譲渡です。持分法適用関連会社とは、連結子会社ではないものの、議決権のおおむね20%以上を持つなどして経営に重要な影響を与えられる会社のことで、その損益は持分に応じて親会社の利益に取り込まれます。今回の譲渡でコミスマはセプテーニHDの持分法適用関連会社から外れます。

項目 内容
発表日・取締役会決議日 2026年11月5日
譲渡者 株式会社セプテーニ・ホールディングス(東証スタンダード、4293)
対象会社 コミスマ株式会社(IPプラットフォーム事業、マンガアプリ「GANMA!」の運営等)
譲渡先 VC2社、非上場の事業会社1社(名称は非開示)
譲渡株式数 42,400株(議決権所有割合23.3%→0.0%)
譲渡価額 1,590百万円(算定方法の記載なし)
株式譲渡契約締結日 2026年11月10日(予定。譲渡先の機関決定の完了が前提)
株式譲渡実行日 2026年11月20日(予定)
業績への影響 売却益(税引後)約8.9億円を2026年12月期第4四半期に親会社の所有者に帰属する当期利益として計上見込み

譲渡先3者のうちVC1社については、セプテーニHDとの間に直接の資本関係はないものの、セプテーニHDがそのVCの組成・運営する投資事業有限責任組合に出資していると開示されています。経営や財務に重要な影響を及ぼすものではなく、関連当事者には当たらないとされています。残る2者とは資本・人的・取引関係はありません。また、セプテーニHDのグループ統括執行役員である呉氏がコミスマの非常勤取締役を兼ねていますが、譲渡の実行をもって退任する予定です。資本と人の両面で関係が解消されることになります。

開示は譲渡の目的を二つ挙げています。セプテーニHD側では、成長領域に経営資源を適切に配分して利益とROE(自己資本利益率)を改善し、売却で得た資金を成長投資などに充てること。コミスマ側では、セプテーニグループの外の株主のもとで事業を運営することが同社の持続的な成長に資すること、です。

コミスマの業績:売上は45億円に伸びたが、営業赤字は11.7億円に拡大

開示されたコミスマの直近3期の業績は次のとおりです。

決算期 売上高 営業利益 当期純利益 純資産 総資産 1株当たり純資産
2023年12月期(15か月) 3,457 △658 △656 476 811 3,655円
2024年12月期 3,389 △1,003 △1,008 2,199 2,844 13,410円
2025年12月期 4,503 △1,167 △1,179 1,090 1,403 6,644円

単位:百万円(1株当たり純資産を除く)。2023年12月期は決算期変更のため2022年10月〜2023年12月の15か月決算。

2025年12月期の売上高は前期比32.9%増と大きく伸びました。一方で営業損失も1,003百万円から1,167百万円に広がり、売上高営業利益率はマイナス29.6%からマイナス25.9%へとやや改善したものの、売上の4分の1を超える赤字が続いています(いずれも編集部が計算)。増収のために費用を先行して投じる段階にある事業と読めます。

純資産の動きからは、赤字を外部資金で埋めてきた姿も見えてきます。2024年12月期は当期純損失1,008百万円を出しながら純資産が476百万円から2,199百万円に増えました。単純に逆算すると、この1年で約27億円(2,199−476+1,008)の資本の増加があった計算です。2024年3月の連結除外を機にVCなど外部の株主から資金を受け入れたとみられますが、増資の時期や金額は今回確認した資料には記載がなく、これは編集部の推計です。2025年12月期は純損失1,179百万円に対し純資産の減少は1,109百万円で、資本の増加は差し引き約0.7億円にとどまります(編集部が計算)。

2025年12月期末の純資産は1,090百万円まで減っており、損失がこのペースで続けば1年分の赤字で純資産をほぼ使い切る水準です(編集部の分析)。今回の譲渡先にVCが2社含まれていることを踏まえると、コミスマにとって株主の入れ替えは追加の成長資金を得る道筋と重なっている可能性があります。ただし、今回の譲渡は既存株式の売買であり、コミスマ自体に資金は入りません。

コミスマの事業環境を見ると、国立国会図書館のカレントアウェアネス・ポータルが紹介した全国出版協会・出版科学研究所の調査(2026年1月26日発表)によれば、2025年の出版市場(紙と電子の合計、推定販売金額)は前年比1.6%減の1兆5,462億円で4年連続の減少でした。電子出版は5,815億円と2.7%増えたものの、電子コミックは伸び率の鈍化が鮮明とされています。市場の拡大に頼って赤字を吸収しにくい局面で、コミスマには増収を続けながら赤字幅を縮める経営が求められることになります。GANMA!の市場での順位や利用者数は今回確認した資料に記載がなく、本稿では位置づけを評価しません。

1,590百万円の値段を測る:1株37,500円は純資産の約5.6倍

開示に1株当たりの譲渡価格は書かれていません。譲渡価額を株数で割ると、1株37,500円になります(1,590百万円÷42,400株、編集部が計算)。赤字のため、利益に対する倍率(PERやEV/EBITDA)は計算できません。純資産と売上を基準に見ると次のとおりです。

指標 計算 結果
1株当たり譲渡価格 1,590百万円÷42,400株 37,500円
2025年12月期末の1株当たり純資産に対する倍率 37,500円÷6,644円 約5.64倍
2024年12月期末の1株当たり純資産に対する倍率 37,500円÷13,410円 約2.80倍
100%換算の株式価値 1,590百万円÷23.3% 約6,824百万円
100%換算の株式価値÷2025年12月期末の純資産 6,824÷1,090 約6.26倍
100%換算の株式価値÷2025年12月期の売上高 6,824÷4,503 約1.52倍

注:すべて編集部が計算。100%換算は議決権所有割合23.3%(2026年10月31日現在)で単純に割り戻したもので、株式の種類による権利の違いや潜在株式は考慮していません。

純資産を基準にした倍率が「1株当たり」では5.64倍、「100%換算」では6.26倍と食い違うのは、分母となる株式数が時点によって異なるためです。2025年12月期末の純資産を1株当たり純資産で割ると発行済株式はおよそ164,058株、一方で42,400株が23.3%に当たるとすれば2026年10月末の議決権の総数はおよそ181,974株になります(いずれも編集部の推計)。2026年に入ってからも株式数が増えた可能性があり、増えた分に見合う資本が入っていれば純資産も増えているはずです。2026年の純資産は開示されていないため、5.64倍という倍率は直近の資本の増加を織り込んでいない上限寄りの値と考えたほうが安全です。

また、VCから出資を受けるスタートアップでは、残余財産の分配などで優先権を持つ種類株式を発行していることが少なくありません。コミスマがそうした株式を発行しているかは開示されておらず、セプテーニHDの42,400株が普通株式か種類株式かも分かりません。株式の種類ごとに価格が違えば、1株37,500円を全株式に当てはめた100%換算の6,824百万円は実際の会社全体の評価とずれます。これらの倍率は、前提を置いた目安として読む必要があります。

その上で編集部の見方を述べると、営業赤字が売上の4分の1を超える会社に、売上高の約1.5倍、純資産の数倍という評価が付いたことは、買い手が足元の利益ではなく、売上の伸びとマンガのIP(知的財産)・利用者基盤の将来価値を評価したことを示すと考えられます。一方で、価格の算定方法、第三者算定機関の利用、フェアネスオピニオンの取得はいずれも開示に記載がなく、売り手としてこの価格をどう検証したかは外部からは確認できません。

2段階で手放した経緯:2024年の56.8%譲渡から今回の残り全株へ

セプテーニHDは2023年12月19日、当時の連結子会社コミックスマートの株式の譲渡を公表しました。2024年2月8日の経過開示を含めると、2段階の流れは次のように整理できます。

項目 第1段階(連結除外) 第2段階(本件・全株売却)
公表 2023年12月19日 2026年11月5日
譲渡実行日 2024年3月29日(予定と開示) 2026年11月20日(予定)
譲渡株式数 74,000株 42,400株
セプテーニHDの議決権所有割合 89.42%→32.57% 23.3%→0.0%
譲渡先 VC3社 VC2社・非上場事業会社1社
譲渡価額 守秘義務を踏まえ非開示 1,590百万円
利益への影響 連結で約22.3億円の利益、個別で関係会社株式売却益16.8億円(いずれも計上予定として開示) 税引後の売却益約8.9億円(親会社の所有者に帰属する当期利益)
位置づけ 連結子会社→持分法適用関連会社 持分法適用関連会社→資本関係なし

注:第1段階の割合は2024年2月8日の経過開示の値(当初開示では89.4%→32.6%)。両段階の利益は税引前・税引後など計上の基準が異なるため、単純に合計できません。

第1段階で譲渡後に残った株式が42,400株で、今回の譲渡株式数と同じです。つまり、セプテーニHDは2024年3月以降、コミスマ株を買い増しも売却もしていません。それでも議決権割合が32.57%から23.3%に下がったのは、分母となる株式数が増えたためと考えられます。前節の推計では、株式数は第1段階の時点のおよそ13万株(42,400株÷32.57%)から、2025年12月期末におよそ16.4万株、2026年10月末におよそ18.2万株へと増えた計算です(いずれも編集部の推計)。セプテーニHDが追加出資に応じずに持分が薄まってきた経過は、同社がすでに「一株主の立場」に退いていたことを数字で裏づけています。ただし、増資の時期・方法・引受先は開示されていません。

2026年10月31日現在の大株主は、インキュベイトファンド5号投資事業有限責任組合28.4%、セプテーニHD 23.3%、WiL Ventures III, L.P. 21.4%、B Dash Fund 4号投資事業有限責任組合12.6%です。セプテーニHDを除く上位3つのVCファンドで62.4%を持っています。第1段階の譲渡先VC3社がこの3つと同じかは、今回確認した資料からは確認できません。今回の譲渡先3者がどのような比率で株式を引き受けるかも開示されていないため、譲渡後に誰が筆頭株主になるかは分かりません。

セプテーニHD側の計算:15.9億円は中計の資金配分の中でどれほどか

セプテーニHDは2026年2月12日に中期経営計画(FY2026-2028)を公表しています。デジタルマーケティング領域を主軸とする3つの報告セグメントを持ち、基本方針の一つ「事業の探索」で未来の収益柱への投資を加速するとしています。本件開示も、この方針の下で事業ポートフォリオの管理を進める中での判断だと説明しています。中計の主な数字は次のとおりです。

項目 内容
FY2028の定量目標 収益36,610百万円、Non-GAAP営業利益6,400百万円、当期利益5,800百万円、ROE 8.4%
3か年の成長投資予定枠 約250億円
3か年のキャッシュイン想定 営業キャッシュフロー200億円、保有現預金・資産売却・有利子負債等160億円
3か年の配当 下限112億円(1株当たり年間配当の下限18円、または当期利益の50%)
長期目標(VISION 2030) 2030年に当期利益100億円、Non-GAAP営業利益100億円

本件の譲渡価額1,590百万円は、成長投資予定枠約250億円の6.4%、「保有現預金・資産売却・有利子負債等」の160億円の9.9%に当たります(編集部が計算)。単独で投資計画を左右する規模ではありませんが、中計が想定した「資産売却」による資金の一部を具体化する取引と位置づけられます。

業績面では、セプテーニHDの業績は中計を上回るペースで推移しています。2026年8月6日の第2四半期決算説明資料では、通期の親会社の所有者に帰属する当期利益の予想を期初の5,250百万円から6,000百万円に引き上げ、ROEは修正後予想で9.1%(概算)と、2025年12月期実績の5.1%から大きく上がる見通しを示しました。修正の理由は、2026年5月26日に公表したLION DIGITAL GLOBAL社の株式譲渡に伴う東南アジアの連結子会社の清算決定による税負担の軽減と、事業ポートフォリオの選択と集中とされています。資料は、1社の買収と2社の売却を進めた結果として、FY2028までの定量目標を前倒しで達成する見込みとし、FY2027以降の目標の見直しを検討するとしています。

本件の売却益約8.9億円は、通期予想6,000百万円の14.8%に当たります(編集部が計算)。本件開示は、通期連結業績への影響を足元の進捗を含めて「現在精査中」とし、業績予想の修正が必要になった場合は速やかに公表するとしています。この売却益が8月時点の通期予想に織り込まれているかは、確認した資料からは分かりません。参考までに、修正後予想の当期利益6,000百万円とROE 9.1%から逆算すると、ROEの分母となる自己資本はおよそ659億円で、8.9億円はROEにして約1.35ポイントに相当します(6,000÷9.1%、890÷65,934で編集部が計算。概算値どうしの逆算による目安)。仮に予想に含まれていなければ、2026年12月期のROEを押し上げる要因になりえますが、売却益は一度きりの利益であり、翌期以降のROEを支えるのは、回収した資金をどの事業に振り向けるかです。

編集部の見方では、本件のもう一つの効果は、利益への上乗せよりも、赤字の取り込みが止まる点にあります。持分法の下では、コミスマの損失のうちセプテーニHDの持分に応じた額が毎期の利益から差し引かれます。2025年12月期のコミスマの純損失1,179百万円に23.3%を単純に掛けると約2.7億円になりますが、実際の取り込み額は持分比率の推移や会計基準の調整で変わり、セプテーニHDの決算で確認する必要があります。いずれにせよ、全株売却によってこの負担は2026年11月20日の実行後になくなります。

経営者への示唆:育てた事業を「段階を踏んで」手放す

連結除外と全株売却を分けることで、時間を味方につける

本件の特徴は、立ち上げた事業を一度に売り切らず、まず過半を手放して連結から外し、2年半あまり少数株主として残ってから残りを売った点です。営業赤字が売上の2〜3割に達する事業を一度に100%売ろうとすれば、買い手は限られ、価格も低くなりがちです。第1段階で外部の株主に経営の主導権と資金の手当てを移し、事業が育つのを待って残りを売る流れは、売り手にとって売却価格の上振れ余地を残す方法になります。ただし、その間に業績が悪化すれば持分法による損失の取り込みや減損の負担を負います。応用するなら、第1段階の時点で、残す持分をいつ、どの条件で売るのかという出口の目安を社内で決めておくことが前提になります。

追加出資に応じない判断は、出口の意思表示でもある

セプテーニHDの持分は、株式を1株も売らないまま32.57%から23.3%に下がりました。コミスマが外部から資金を受け入れる場面で、セプテーニHDは引き受けに加わらなかったとみられます。少数株主として残る会社が増資に応じるかどうかは、関与を深めるのか、徐々に引いていくのかを示すシグナルになります。持分が20%を下回れば、一般に持分法の適用の判断にも影響します。経営者としては、関係会社の資金調達に参加するかどうかを、その都度の金額ではなく、将来の持分比率と出口の計画に照らして決める必要があります。

売却を中計の資金配分の中に位置づけて説明する

本件の開示は、売却の理由を「利益・ROEの改善」と「成長投資の資金確保」という中計の言葉で説明しています。事業の売却は撤退や縮小と受け止められがちですが、中計で資産売却をキャッシュインの一つとして示しておけば、投資家に対して資本の入れ替えとして説明しやすくなります。一方で、売却で得た資金の具体的な投資先は本件開示に書かれておらず、説明の説得力は今後の投資の成果に左右されます。売却を発表する際には、資金の使い道と、その投資に求める収益の水準をできるだけ具体的に示すことが望まれます。

M&A実務者への示唆:価格・契約・開示の確認点

赤字の非上場株式の価格をどう検証するか

専門書は、非上場株式の価格の算定には明確な判断基準が確立されているわけではなく、純資産法、DCF法、類似会社比較法などを組み合わせ、事業計画と資産の価値を総合して決めることが一般的だと解説しています(『エクイティ・ファイナンスの理論と実務(第3版)』第3章、戸嶋浩二ほか『M&A契約 モデル条項と解説』第2部第3章)。赤字の事業では、将来の事業計画の前提が評価を大きく左右します。本件では、1株37,500円が直近の1株当たり純資産の約5.6倍に当たりますが、算定方法や第三者の評価書の有無は開示されていません。実務家としては、売り手の取締役会がどのような資料で価格の妥当性を確認したか、種類株式の有無と今回の株式の種類、直近の資金調達の評価額との関係を確認したいところです。

譲渡先が名称非開示・複数の場合の契約上の論点

専門書は、譲渡制限のある株式を譲渡する場合には対象会社の取締役会などによる譲渡の承認が必要になり、これを契約の実行の前提条件として定めるのが一般的だと説明しています(戸嶋浩二ほか『M&A契約 モデル条項と解説』第2部第5章)。既存の株主間の取り決めに優先交渉権や譲渡制限、共同売却権(タグ・アロング権)などがある場合には、その権利の処理も論点になります(藤原総一郎編著『M&Aの契約実務(第2版)』第1編第2章)。本件では、契約締結そのものが譲渡先の機関決定の完了を前提としており、11月5日の時点では契約が締結されていません。3者のうち1者でも機関決定が得られない場合にどう扱うのか、承認手続と他の株主の権利の処理がどうなっているのかは、開示からは分かりません。なお、これらは専門書が示す一般的な実務の考え方で、本件の当事者がこうした条項を採用したことを示すものではありません。

LP出資先のVCが買い手に入るときの利益相反の整理

譲渡先のうち1社は、セプテーニHDが出資するファンドを運営するVCです。開示は、経営や財務に重要な影響を及ぼす関係ではなく関連当事者には当たらないとしています。それでも、売り手が買い手側のファンドの出資者でもある構造は、価格の交渉が独立した当事者どうしで行われたかを説明する必要を生みます。売り手がファンドを通じて間接的にコミスマ株を持ち続ける形になる可能性もあり、出資の規模によっては「全株売却」の実質を確認する意味もあります。実務家としては、ファンドへの出資額と持分、価格交渉の経緯、取締役会での審議の方法を確認すべきでしょう。

撤退の判断基準をあらかじめ持つ

専門書は、事業ポートフォリオを組み替える際には、選択と集中を進める観点から客観的な判断基準を使うことが重要だと述べています(木俣貴光『M&A戦略の立案プロセス』第9章)。本件では、2024年の連結除外から今回の全株売却まで約2年8か月かかりました。開示は今回の判断を「利益・ROE改善の観点からの検討」と説明していますが、どのような基準で今を売り時と判断したかは示していません。少数持分を残す段階的な撤退では、残した持分の価値と損失の取り込みを定期的に点検し、売却に移る条件を決めておくことが、判断の遅れを防ぐ手立てになります。

本件のまとめ

本件の要点は、セプテーニHDが2024年3月の連結除外で関与を減らしたマンガアプリ事業のコミスマについて、残っていた42,400株(議決権23.3%)を1,590百万円で売り切り、資本関係と役員の兼務をともに解消することです。セプテーニHDは2024年以降コミスマ株を買い増しておらず、増資に応じないまま持分が32.57%から23.3%に下がっていたとみられ、今回の売却はその延長線上にある出口と整理できます。

戦略面では、デジタルマーケティングを主軸とするセプテーニHDにとって、営業赤字が売上の4分の1を超えるIP事業を持ち続ける理由は乏しく、中計が掲げる成長領域への資源配分と利益・ROEの改善という方針に沿った判断と考えられます。この合理性が成り立つには、回収した1,590百万円が成長投資予定枠約250億円の中で、資本コストを上回る事業に振り向けられることが条件になります。コミスマにとっては、新たな株主のもとで追加の資金を得て赤字を縮められるかが課題です。

価格面では、1株37,500円は2025年12月期末の1株当たり純資産の約5.64倍、100%換算では売上高の約1.52倍に相当します(いずれも編集部の試算)。赤字企業に対して純資産を大きく上回る価格であり、売り手にとっては税引後約8.9億円の売却益を確定させる条件といえます。ただし、算定方法、種類株式の有無、2026年の株式数の増加を反映した純資産は開示されておらず、倍率は目安にとどまります。

今後は、2026年11月10日の株式譲渡契約の締結(譲渡先の機関決定が前提)と11月20日の譲渡の実行、2026年12月期第4四半期での売却益の計上と通期業績への反映、そしてセプテーニHDがFY2027以降の中計目標をどう見直し、回収資金をどの領域に投じるかが確認すべき点になります。

ディスクロージャー

本記事は、株式会社セプテーニ・ホールディングスが公表した適時開示資料、中期経営計画説明資料、決算説明資料などの公開情報をもとに、asset salon 編集部が分析したものです。記事中の倍率・比率・株式数などの試算は編集部が公開情報から計算したもので、前提を置いた推計や編集部の解釈を含みます。特定の有価証券の売買を勧めるものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

引用元・参考資料

適時開示資料

決算説明資料・IR資料

業界統計・市場データ

参考書籍

  • 木俣貴光『M&A戦略の立案プロセス』中央経済社、2019年、第9章
  • 戸嶋浩二・内田修平・塩田尚也・松下憲『M&A契約 モデル条項と解説』商事法務、2018年、第2部第3章・第5章
  • 藤原総一郎編著『M&Aの契約実務(第2版)』中央経済社、2018年、第1編第2章
  • 森・濱田松本法律事務所キャピタル・マーケッツ・プラクティスグループ編著『エクイティ・ファイナンスの理論と実務(第3版)』商事法務、2022年、第3章

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アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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