セキュア、仙台の日東通信を14億円で子会社化——純資産の約1.1倍を全額借入、年約2億円の返済は対象の純利益を上回る

物理セキュリティシステムを手がけるセキュア(東証グロース、4264)は2026年10月13日、仙台市の日東通信株式会社を子会社化すると発表した。取得価額は1,405百万円で、アドバイザリー費用などを含めて概算1,423百万円。株式の取得資金として、みずほ銀行から同額の1,405百万円を借り入れる。株式譲渡は2026年12月18日の予定である。

日東通信は1971年創業で、東北全域に拠点を持ち、通信システムの設計・構築と電気通信工事を手がける。宮城県の電気通信工事で最上位の入札格付「Sランク」を持つ。

本記事では、取得価額を開示された財務数値と比べ、全額借入という資金設計が何を意味するのか、そして売手がなぜ資産管理会社を挟んで売却するのかを整理する。

※情報基準日:2026年10月14日。数値は2026年10月13日付のセキュア開示資料による。

取引の条件

項目 内容
買手 株式会社セキュア(東証グロース、4264)
対象会社 日東通信株式会社(宮城県仙台市、1971年設立)
事業内容 電気通信工事業・電気機械器具卸売業
売手 髙橋進太郎氏が単独株式移転で設立する新設法人
取得株式数 65,200株(議決権所有割合100%)
取得価額 1,405百万円(アドバイザリー費用等を含め概算1,423百万円)
資金 みずほ銀行からの借入れ1,405百万円(無担保・無保証)
新設法人設立 2026年10月19日(予定)
株式譲渡実行日 2026年12月18日(予定)
業績影響 2026年12月期は精査中、2027年12月期以降の業績向上に資する見込み

日東通信は現在、髙橋氏が65,200株(81.5%)、自己株式が14,800株(18.5%)という株主構成である。株式移転に先立って自己株式を消却するため、髙橋氏の持株が実質的に100%になる。

日東通信の財務

決算期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 2,126百万円 2,174百万円 2,718百万円
営業利益 105百万円 177百万円 64百万円
経常利益 185百万円 248百万円 189百万円
当期純利益 112百万円 166百万円 121百万円
純資産 981百万円 1,147百万円 1,256百万円
総資産 2,491百万円 3,119百万円 2,962百万円
営業利益率 4.9% 8.1% 2.4%

(営業利益率は筆者計算)

2026年3月期は売上高が25.0%増えた一方、営業利益は64百万円と前期の約3分の1に減った(筆者計算)。売上の伸びと利益の動きが逆で、低採算の案件が増えたか、原価が上がった可能性がある。開示資料に理由の説明はない。

もう一つの特徴は、営業利益と経常利益の差である。3期とも経常利益が営業利益を大きく上回り、2026年3月期は営業外で約125百万円の純益が出ている(筆者計算)。経常利益189百万円のうち、本業の営業利益は約3分の1にすぎない。営業外収益の中身は開示されていないが、本業以外の収益が毎期の利益を支えている構造である。

自己資本比率は2026年3月期で約42.4%になる(筆者計算)。

1,405百万円は何の何倍か

指標 倍率
純資産(2026年3月期)比(PBR相当) 約1.12倍
当期純利益(2026年3月期)比(PER相当) 約11.6倍
当期純利益(2025年3月期)比 約8.5倍
当期純利益(3期平均133百万円)比 約10.6倍
経常利益(2026年3月期)比 約7.4倍
営業利益(2026年3月期)比 約22.0倍
売上高(2026年3月期)比 約0.52倍

(すべて筆者計算。現預金・有利子負債が開示されていないため、EVベースの倍率は算出していない)

純資産をわずかに上回り、純利益の10倍前後という価格は、当サイトで扱った非上場企業の取得例(スマサポによるトレードワン取得の純利益約7.6倍、情報戦略テクノロジーによるFlyby取得の約9.8倍など)と比べても大きく外れない水準である。一方で、本業の営業利益で見ると約22倍になる。どの利益を基準にするかで印象が大きく変わる案件で、営業外の利益がどこまで買収後も続くかが評価を左右する。

全額借入の重さ

借入れの条件は次のとおりである。

項目 内容
借入先 みずほ銀行
借入金額 1,405百万円
金利 基準金利+スプレッド
借入実行日 2026年12月18日(予定)
返済期日 2033年11月30日(予定)
返済方法 毎月均等分割返済(借入実行日の翌月から毎月末日)
担保 無担保・無保証

2027年1月から2033年11月まで83回の均等返済とすると、元本の返済は月約16.9百万円、年約203百万円になる(筆者計算、利息を除く)。

これは日東通信の当期純利益(2026年3月期121百万円、3期平均133百万円)を上回る。日東通信の利益だけで借入を返し切る設計ではなく、減価償却費などの非資金費用や、セキュア本体を含むグループ全体のキャッシュ・フローで返済することが前提になっていると考えられる。日東通信の減価償却費や現預金は開示されていないため、どの程度の余裕があるかは判断できない。

取得価額と同額を、7年弱で返す借入で賄う。株式を発行せずに買収するため既存株主の持分は薄まらないが、その分、日東通信の利益水準、特に2026年3月期に落ち込んだ営業利益が戻るかどうかが、返済負担に直結する。

セキュアの5件目のM&A

セキュアはこれまでに、施工に強い株式会社ジェイ・ティー・エヌ、官公庁実績と専門人材を持つ株式会社メディアシステム、AI無人決済の株式会社TOUCH TO GO、防犯機器の開発・製造を手がける株式会社テスコムジャパンを順次子会社化してきた。日東通信は5件目にあたる。

これまでの4件は、施工体制、官公庁・地方の販路、リテールDX、機器の開発力と、それぞれ異なる機能を加えてきた。日東通信で加わるのは、東北という地域の拠点網と、通信インフラの施工・保守の技術者である。

開示資料が挙げるシナジーは3つある。

東北での販売・施工・保守の一貫体制

日東通信の東北主要都市の拠点網を取り込み、セキュアのAIセキュリティソリューションを東北で施工から保守まで一貫して提供できる体制をつくる。

官公庁・地場大手へのクロスセル

日東通信は日立製作所などの通信機器特約店として、官公庁や地場の大手・重要施設に施工・保守の実績を持つ。その顧客にセキュアのソリューションを提案し、逆にセキュアの顧客には日東通信の通信インフラ技術を展開する。

有資格者による技術力の底上げ

日東通信には電気通信工事施工管理技士などの有資格者が多数在籍する。人材交流と技術共有で、グループ全体の施工・設計の技術力を高める。

セキュアは今後、オフィスや工場・物流施設に加えて、データセンター、マンション、学校などへの販売拡大を計画している。入退室管理や監視カメラは、ネットワークと電気通信の工事が伴って初めて現場で動く。施工を担える人材と地域拠点の不足は、セキュリティ機器メーカーが地方に広がる際の制約になりやすく、それを買収で埋める戦略とみることができる。

売手はなぜ資産管理会社を挟むのか

株式の売手は髙橋氏本人ではなく、髙橋氏が10月19日に単独株式移転で設立する新設法人である。新設法人が日東通信の完全親会社となり、その全株式を髙橋氏が持つ。セキュアはこの新設法人から日東通信株を取得する。

新設法人の事業目的には、株式の保有に加えて、不動産、有価証券、暗号通貨の保有・運用や、車両・測定器・工具の保有・賃貸が並ぶ。売却代金を法人で受け取り、運用する資産管理会社としての性格を持つと考えられる。

オーナーが個人で株式を売れば、売却益に個人の所得税がかかり、代金は個人の手元に入る。法人を挟めば、代金は法人に残り、その後の運用や承継の設計を法人単位で行える。開示資料はこのスキームを選んだ理由を示していないため、税務上の効果を含め、どの点を重視したかは外部からは判断できない。買手にとっては、取引相手が個人から設立直後の法人に変わるため、表明保証や補償の責任を誰がどう負うかを契約上どう手当てするかが論点になる。

利益より拠点と人を買い、返済はグループが背負う

セキュアは、純資産の約1.12倍、純利益の約11.6倍で、東北の通信工事会社を取得する。価格そのものは突出していないが、本業の営業利益は前期の約3分の1に落ちており、利益の多くを営業外の収益が支えている。

取得資金は全額を7年弱の借入で賄い、年約2億円の元本返済は日東通信の純利益を上回る。セキュアが買うのは日東通信の利益というより、東北の拠点網、官公庁の入札格付、そして施工を担える有資格者であり、その返済はグループ全体で背負う設計といえる。2026年3月期に落ち込んだ営業利益がどこまで戻るかが、この借入の重さを決める。

同じセキュリティ業界で、取得資金を全額借入で賄った案件として、以下と比べると資金設計の違いがわかる。

ヒトトヒトHD、SPD&Companyを全額借入で子会社化——EV/EBITDA5倍台・借入30億円の警備会社買収を読む
https://assetsalon.online/hitotohito-spd-debt-financed-acquisition/

スマサポ、トレードワンを借入742百万円で子会社化——純利益の約7.6倍で入居者アプリをD2Cチャネルに
https://assetsalon.online/sumasapo-tradeone-acquisition-2026/

引用元

一次情報

株式会社セキュア「日東通信株式会社の株式の取得(子会社化)及び資金の借入に関するお知らせ」(2026年10月13日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20261013/140120261013549436.pdf

ディスクロージャー

本記事は株式会社セキュアの適時開示資料をもとにした分析です。営業利益率、営業外損益、自己資本比率、各種倍率、借入の年間返済額などは開示数値から筆者が計算したもので、利益構造や買収の狙い、売手側スキームの背景に関する記述のうち開示資料に明示されていないものは筆者の解釈です。特定銘柄の売買を勧めるものではありません。判断にあたっては一次情報を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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