保守サービスで食ってきた会社が、なぜCADコンサルを買うのか。
2026年5月28日、株式会社SHINKO(証券コード:7120、東証スタンダード)は株式会社TACの全株式を取得し子会社化すると発表した。取得価額は普通株式615百万円にアドバイザリー費用等91百万円を加えた合計706百万円(概算)。TACはCAD設計システムの販売・導入コンサルティングを手がける、東京都品川区の非上場企業だ。
SHINKOは新中期経営計画(FY2024-FY2026)で「成長と収益力向上」を最重要テーマに掲げているが、主力のITソリューション事業は価格競争が激しく、利益率向上を阻んできた。この構造的な課題に対して、なぜCADコンサル会社の買収という一手を選んだのか。開示された財務数値をもとに検証する。
案件概要とTACの財務推移
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 案件名 | 株式会社TACの株式取得(子会社化) |
| 開示会社 | 株式会社SHINKO(コード:7120、東証スタンダード市場) |
| 対象会社 | 株式会社TAC(CAD設計システム販売・コンサルティング、東京都品川区、非上場) |
| 売手 | 髙田定憲氏(TAC代表取締役・創業者、100%保有) |
| スキーム | 全株式取得(株式譲渡) |
| 取得価額 | 株式対価615百万円+アドバイザリー費用等91百万円=合計706百万円(概算) |
| 算定方法 | 第三者算定機関による株式価値算定結果を勘案して決定 |
| 実行予定日 | 2026年7月1日(株式譲受期日) |
| 開示日 | 2026年5月28日 |
| TACの業績推移 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 645,123千円 | 772,003千円 | 1,033,896千円 |
| 営業利益 | 31,770千円 | 56,835千円 | 3,208千円 |
| 当期純利益 | 22,564千円 | 38,924千円 | △34,197千円 |
売上高は3年で年率20%超のペースで伸びている一方、2025年12月期は営業利益・純利益とも急落し、最終赤字(△34,197千円)に転落した。開示によれば、この落ち込みは過年度損益修正と一部従業員への退職金支払いによるもので、影響額は79,700千円、いずれも一時的な要因だとされている。なお、TACは2026年4月16日付で一部事業を切り離しており、公表財務数値はこの切り離し前の実績である点には注意が必要だ。
バリュエーション——「一時赤字の年」をどう評価するか
株式対価615百万円を2025年12月期の純資産323,330千円で割ると、PBRは約1.90倍になる。営業利益ベースで倍率を見ると様相が変わる。2025年12月期の営業利益3,208千円を分母にすると615百万円は実に190倍超という極端な数字になってしまうが、これは一時要因で押し下げられた年の利益を使ったことによる歪みだ。一時要因(退職金等79,700千円)を除いた2024年12月期の営業利益56,835千円を分母にすると、約10.8倍という、成長中小企業のM&Aとして違和感のない水準に収まる。
つまりSHINKOは、表面上の2025年12月期決算だけを見れば「赤字企業を買う」判断に見えるものが、退職金や過年度修正といった一時要因を取り除いた実力ベースの収益力で評価すれば妥当な価格だと判断したとみられる。第三者算定機関による株式価値算定結果を勘案した旨が開示されている点は、この正規化された評価プロセスを外部専門家が検証したことを示しており、公正性確保の観点で重要な事実だ。
「人材採用力」をシナジーの中心に据えた設計
本件で他のM&Aと一線を画すのは、SHINKOが統合の根拠として資金力ではなく「人材採用力」を明示している点だ。SHINKOは毎年70名以上のエンジニア・営業職新卒を採用してきた実績を持つ。開示ではTACの課題として人材確保の難しさが挙げられており、SHINKOはこの採用基盤を活かしてTACの人材確保に貢献する方針だとしている。
財務シナジーやクロスセルに偏りがちな日本のM&A開示の中で、採用力という無形の経営資源を明確なシナジー源泉として位置づけている点は本件の独自性だ。製造業・建設業を中心とするSHINKOの既存顧客基盤にTACのCADコンサルサービスを提案するクロスセルの可能性も見込めるが、開示上の力点はあくまで「人」の補完関係に置かれている。一方で、創業者・髙田氏がM&A後も経営に関与するかどうかは開示されておらず、非上場企業特有の情報非対称性の中で、顧客関係や技術知見が創業者個人に集中していないかは今後の統合過程で見えてくる論点だ。
採用力を軸にした本件の狙いに近い構図——資金力ではなく組織の強みで成長企業の課題を埋めるM&A——は、価格競争にさらされるIT中堅企業が利益率改善の隣接領域を取り込む動きとして、今後も出てくる可能性がある。SHINKOのTAC買収が706百万円という決して小さくない投資である以上、その答え合わせは、TACの採用実績とクロスセルの進捗という具体的な数字で今後示されることになる。
引用元
SHINKOがCAD関連コンサルティングのTACを子会社化へ(M&Aニュース/日本M&Aセンター運営)
株式会社TACの株式取得(子会社化)に関するお知らせ(TDnet開示情報ミラー、BigGoファイナンス)
株式会社SHINKO公式サイト
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