レスターがPCIホールディングスをTOBで連結子会社化、なぜ50.50%の議決権取得にとどめたのか

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2018年からの資本業務提携が連結子会社化へ発展した経緯

株式会社レスター(電子部品商社)は2024年8月9日、東証スタンダード上場のPCIホールディングス株式会社を公開買付け(TOB)により連結子会社化すると発表した。買付価格は1株1,210円、買付予定数は上限・下限とも4,480,000株(所有割合44.67%)で、期間は2024年8月13日から9月20日までの28営業日間である。

両社の関係は今回が初めてではない。2018年6月に資本業務提携契約を締結して以来、レスターは相対取引でPCI株式を段階的に取得(当初1.04%→2.08%→4.62%→5.83%)し、両社は半導体関連事業の合弁会社(VSE、シスウェーブ等、後にプリバテックへ統合)を通じて技術協業を6年間積み重ねてきた。しかし、レスターは「物売りを主体とする自社グループ」と「ITサービス提供を主とするPCIグループ」が別の企業グループにとどまる限り、商習慣・企業文化の違いから協業深化に限界があると判断し、2024年4月下旬、資本関係を過半数出資まで強化する意向をPCIに伝えた。今回のTOBは、6年越しの緩やかな提携関係を、資本多数決による同一グループ化へと発展させる案件と位置づけられる。

なぜ上限と下限が同じ「44.67%」なのか——過半数ちょうどを狙う設計

本件で特徴的なのは、買付予定数の上限と下限がいずれも4,480,000株(44.67%)と完全に一致している点である。レスターは公開買付け前から既にPCI株式585,000株(所有割合5.83%)を保有しており、上限一杯まで買い付けても合計は5,065,000株、潜在株式(新株予約権124,400株分)を勘案した株式総数に対する所有割合は50.50%にとどまる。PCIの意見表明報告書は、この水準について「連結子会社とするため一般的に必要とされる最低限の水準として、成立後の所有割合が過半数となるよう」設定したと説明している。

言い換えれば、レスターは完全子会社化(100%取得)を目指したのではなく、連結決算に取り込める最小限の過半数(50%超)を、東証スタンダード上場を維持したまま獲得することを狙った案件である。上限・下限を同一に固定することで、応募が上限を超えた場合の按分比例による買付けも、下限未達による不成立も、実質的に「予定した株数ちょうど」を取得する以外の結果を排除する設計になっている。

価格交渉——1,170円提案は「不十分」、1,210円で決着

レスターは2024年7月24日、PCIに対して1株1,170円(前営業日終値969円に対して20.74%のプレミアム)を提案したが、PCI側は一般株主にとって十分なプレミアムではないと回答した。レスターは7月30日に1,210円(前営業日終値963円に対して25.65%)へ引き上げ、これを「提示できる最良の条件」とした。PCIはなお引き上げを求めたが、レスターは8月2日、同額の1,210円が限界であると回答。8月5日にPCI取締役会が受諾し、8月9日に両社の取締役会で正式決定に至った。初回提案から最終価格までの引き上げ幅は3.4%(1,170円→1,210円)にとどまり、トーハン・KHC両案件と比較すると交渉の振れ幅は小さい。

ガバナンス設計——上場維持と「取締役2名以内」という妥協点

本件は完全子会社化を伴わないため、TOB成立後もPCIの独立した意思決定プロセスをどう担保するかが論点になる。両社が締結した新たな資本業務提携契約では、レスターがPCIの監査等委員でない業務執行取締役1名を含む取締役2名以内を指名する権利を持つ一方、それ以上の経営関与は制限されている。特別委員会は設置されなかったが、独立した第三者算定機関(プルータス・コンサルティング)による算定と、利害関係を有しない取締役全員による全会一致の承認によって公正性を担保する構成が取られた。

また、PCIの創業家資産管理会社である株式会社Y&U(565,800株、5.64%)と第5位株主の関谷恵美氏(319,600株、3.19%)は応募契約を締結し、保有株式の全て(合計885,400株、8.83%)をTOBに応募することに合意している。これにより下限4,480,000株のうち約2割が応募契約でほぼ確定していたことになる。

価格算定結果

  • 買付者側(プルータス・コンサルティング):市場株価法849円~946円/類似会社比較法857円~1,042円/DCF法1,128円~1,773円

上記はPCIの意見表明報告書に開示されている、買付者側の算定機関による算定結果である。最終価格1,210円はDCF法のレンジ(1,128円~1,773円)の下限付近に位置しており、市場株価法(849円~946円)・類似会社比較法(857円~1,042円)のレンジは上回る水準である。公表日の前営業日(2024年8月8日)の終値849円に対しては42.52%(過去1ヶ月間終値単純平均936円に対して29.27%、3ヶ月間946円に対して27.91%、6ヶ月間945円に対して28.04%)のプレミアムが付されている。連結子会社化にあたり将来キャッシュフローの取り込みを重視したDCF法を基準に価格を設定しつつ、市場株価に対する相応のプレミアムを確保する折衷的な価格設定だったと考えられる。

期待されるシナジー

両社が2018年以降の協業で得た実績(レスターによるPCI子会社ソードの部材調達支援、PCIによるレスターの技術支援・基幹システム開発支援など)を土台に、資本多数決による意思決定の一体化を通じて、車載・産業機械・ICT分野での顧客基盤共有、技術者リソースの拡充、システムインテグレーションの上流工程(企画提案)への展開を加速させる狙いがある。レスターは900億円規模の財務基盤を持つとされ、PCIにとっては成長投資の選択肢が広がる一方、統合後も上場が維持されるため、少数株主にとっての流動性は損なわれない。

まとめ——なぜ「50.50%」だったのか

レスターがPCIホールディングスを完全子会社化せず50.50%の議決権取得にとどめた理由は、意見表明報告書の記載から、連結子会社化に必要な最小限の過半数を、上場維持というPCI側の意向と両立させる形で獲得することにあったと読み取れる。6年間の緩やかな資本業務提携では商習慣・企業文化の違いを越えられなかったという公開買付者の総括を踏まえると、完全子会社化による統合コストやPCIの独立性喪失を避けつつ、意思決定の主導権だけを握るという選択は、両社の事業領域の違い(電子部品商社とITサービス)を考えれば合理的な落とし所だったと評価できる。

参照:『意見表明報告書』PCIホールディングス株式会社(2024年8月13日提出、EDINET

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アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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