ファーマフーズ(東証プライム、2929)は2026年10月6日、株式会社マリン・プロフーズの全株式を取得し、子会社化すると発表した。売手は大和PIパートナーズが業務執行組合員を務める投資事業組合「DPIP企業支援1号」で、取得価額は5,030百万円。株式の譲渡は公正取引委員会の審査を前提に、2026年10月30日に実行される予定である。
マリン・プロフーズは、水産加工品や大豆・農産加工品を病院・介護施設や学校給食事業者に企画・販売する会社で、直近期の売上高は約95億円。開示資料によれば、紀文グループとキッコーマングループを経て独立した経緯を持つ。
ファンドが保有していた食品会社を、事業会社が買い取る取引である。本記事では、取得価額を開示された財務数値と比べ、ファンド保有期間に会社の財務がどう動いたかを確認する。
※情報基準日:2026年10月10日。数値は2026年10月6日付の開示資料による。
目次
取引の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 買手 | 株式会社ファーマフーズ |
| 対象会社 | 株式会社マリン・プロフーズ(東京都千代田区、2021年11月設立) |
| 事業内容 | 農畜水産物、大豆加工品の企画開発・販売(病院・介護施設、学校給食事業者向けのBtoB「メディカルフーズ事業」) |
| 売手 | 投資事業組合「DPIP企業支援1号」(業務執行組合員:大和PIパートナーズ株式会社)。保有比率100% |
| 取得株式数 | 124,600株(100%) |
| 取得価額 | 5,030百万円 |
| 株式譲渡実行日 | 2026年10月30日(予定)。独占禁止法第10条第2項の届出に係る審査で問題がないことが前提 |
| 業績への影響 | 精査中 |
財務の推移と取得価額の倍率
| 決算期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 8,573百万円 | 9,073百万円 | 9,475百万円 |
| 営業利益 | 247百万円 | 518百万円 | 542百万円 |
| 経常利益 | 88百万円 | 466百万円 | 482百万円 |
| 当期純利益 | 11百万円 | 268百万円 | 268百万円 |
| 純資産 | 1,285百万円 | 1,553百万円 | 1,822百万円 |
| 総資産 | 4,897百万円 | 4,987百万円 | 5,046百万円 |
売上高は年4〜6%のペースで伸び、営業利益は2024年3月期の247百万円から2年で2倍強になった。営業利益率は2026年3月期で約5.7%である(筆者計算)。開示資料によれば、今期は売上高100億円を目標にしている。
取得価額5,030百万円を2026年3月期の数値で割ると、次のようになる(筆者計算)。
| 指標 | 倍率 |
|---|---|
| 取得価額 ÷ 営業利益 | 約9.3倍 |
| 取得価額 ÷ 経常利益 | 約10.4倍 |
| 取得価額 ÷ 当期純利益(PER相当) | 約18.8倍 |
| 取得価額 ÷ 純資産(PBR相当) | 約2.8倍 |
| 取得価額 ÷ 売上高 | 約0.53倍 |
有利子負債と手元資金は開示されていないため、EVベースの倍率は計算できない。負債総額は総資産から純資産を引いた約3,224百万円で(筆者計算)、自己資本比率は約36%である。
ファンド保有期間に何が起きたか
いくつかの数値の動きから、ファンド保有下の財務の特徴が読み取れる。
営業利益と経常利益の差
2024年3月期は、営業利益247百万円に対して経常利益が88百万円で、159百万円の差があった。2025年3月期以降はその差が50〜60百万円程度に縮まっている。営業外の費用が大きかったことを示しており、支払利息などが考えられるが、開示資料に内訳はない。ファンドによる買収では、取得資金の一部を対象会社側の借入で賄う形がとられることが多く、その利息負担が営業外費用に表れている可能性がある。
配当を出さずに純資産を積み上げた
純資産は2025年3月期に268百万円、2026年3月期に269百万円増えた。それぞれの期の当期純利益268百万円とほぼ同額であり、この2期間は配当を出していない計算になる(筆者推定)。ファンドは保有期間中に配当で資金を回収するのではなく、利益を社内に残して純資産を厚くし、売却時に回収する形をとったとみられる。
保有期間
マリン・プロフーズの設立は2021年11月11日で、現在の株主はファンド1社のみである。開示資料が「紀文グループ、キッコーマングループを経て独立」と記載していることから、2021年の設立は大手グループからの独立にあわせた受け皿会社の組成であった可能性がある。その場合、ファンドの保有期間はおよそ5年になる。開示資料はファンドの取得時期や取得価額を示していないため、ファンドの投資リターンは計算できない。
ファーマフーズにとっての位置づけ
ファーマフーズは「医薬」と「食」の融合を掲げ、機能性食品素材、創薬、通信販売の3部門を持つ。主力素材の「ファーマギャバ」をはじめ、自社開発の機能性素材を国内外の食品・飲料・化粧品メーカーに供給している。
開示資料は、ファーマフーズの機能性素材をマリン・プロフーズの製品群に応用し、健康価値を高めたメディカルフードを作ることを本件の狙いとして挙げる。マリン・プロフーズが扱う水産加工品は、消化吸収の早い良質なたんぱく質を多く含み、脂質が少ない。病院や介護施設向けのBtoB市場を強化したうえで、大型スーパーやコンビニエンスストアなど一般家庭向けの市場も開拓するとしている。
素材メーカーであるファーマフーズにとって、病院・介護施設・学校給食という販売先は新しい顧客層である。自社素材の新たな出口を、売上高約95億円の販売網ごと取得する取引と位置づけられる。
なお、本件は独占禁止法第10条第2項に基づく株式取得の届出の対象となっている。この届出は一般に、取得する会社のグループの国内売上高合計が200億円を超え、対象会社とその子会社の国内売上高合計が50億円を超える場合に必要になる。
開示されていない3つの数字
第一に、取得資金の調達方法と、マリン・プロフーズの有利子負債の額である。いずれも開示されておらず、EVベースでの評価や、取得後のファーマフーズの財務への影響を見るうえで欠かせない情報である。
第二に、のれんの額である。取得価額5,030百万円と純資産1,822百万円の差は約32億円あり(筆者計算)、時価評価の結果によってはその多くがのれんとして計上される可能性がある。
第三に、機能性素材を使ったメディカルフードの製品化の時期と、病院・介護施設向け以外の販路への展開である。開示資料が挙げる効果の多くは、これからの製品開発にかかっている。
結論:ファンドの出口と素材メーカーの新しい販路
ファーマフーズは、ファンドが利益を社内に残して純資産を厚くしてきた食品会社を、営業利益の約9.3倍、純資産の約2.8倍で取得する。ファンド側は保有期間中の配当ではなく売却時にまとめて回収し、買手は売上高約95億円の病院・介護施設向けの販路を手に入れる。この価格が見合うかどうかは、自社の機能性素材を使った製品がこの販路でどれだけ売れるかで決まる。
ファンドが保有していた会社を事業会社が引き継いだ過去の案件では、価格の水準を次のように読んでいる。
モスフードがBYOを112億円で子会社化——PEファンド・日本KFC・創業家が同時に手放した和食チェーンの価格を読む
https://assetsalon.online/mos-food-byo-acquisition/
セイワHD、保安道路企画を完全子会社化——ポストフレックスのニッチ企業をファンドから引き継ぐ製造業ロールアップ
https://assetsalon.online/seiwa-hd-hoando-kikaku-acquisition/
引用元
一次情報
株式会社ファーマフーズ「株式会社マリン・プロフーズの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」(2026年10月6日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20261006/140120261006546305.pdf
ディスクロージャー
本記事は株式会社ファーマフーズの適時開示資料をもとにした分析です。各種倍率、負債総額、配当の有無、のれんの規模感などは開示数値から筆者が計算・推定したもので、ファンドの資金回収の方法や保有期間についての記述は筆者の解釈を含みます。特定銘柄の売買を勧めるものではありません。判断にあたっては一次情報を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。