情報戦略テクノロジーのFlyby子会社化とM&A戦略

PR

導入文

2026年8月13日、東証グロース上場の情報戦略テクノロジー(155A)は、ITコンサルティングとアジャイル開発を手掛ける株式会社Flybyと、その親会社である株式会社Flyby Managementを二段階で子会社化すると発表した。取得価額は合計で最大829百万円に達する見込みである。

同社は2025年2月に初のM&Aとしてインフラ領域に強みを持つ株式会社エー・ケー・プラスの株式を取得しており、今回はそれに続く2件目のM&Aとなる。単発の買収ではなく、連続的な布石であることがうかがえる。

本記事では、情報戦略テクノロジーによるFlyby子会社化の背景にある経営判断、資産管理会社ごと取得する二段階スキームの意味、そしてアーンアウト条項が示す買収規律について、経営者・M&A実務家の視点から読み解く。

1. 案件概要

項目 内容
案件名 株式会社Flyby及び株式会社Flyby Managementの株式取得(子会社化)
開示会社 株式会社情報戦略テクノロジー(東証グロース、155A)
対象会社 株式会社Flyby/株式会社Flyby Management
買手 株式会社情報戦略テクノロジー
売手 株式会社Flyby Management(Flyby株式の一部)、伊藤一記氏ほか既存株主、伊藤一記氏(Flyby Management株式)
スキーム 株式取得(子会社化)、二段階取得・条件付対価(アーンアウト)付き
取引金額 合計最大829百万円(Flyby株式:最大158百万円、Flyby Management株式:671百万円)、別途アドバイザリー費用概算150万円
実行予定日 2027年1月(株式取得実行日、予定)
開示日 2026年8月13日

2. なぜ今このM&Aなのか

0次DXという理念と垂直統合の必然性

情報戦略テクノロジーは、多重下請け構造を破壊し顧客との距離をゼロにする0次DXというスタイルを掲げてきた企業である。この理念を実装するには、経営課題を捉える上流のコンサルティング領域から、スピーディーな開発実行までを自社グループで一気通貫に持つ必要がある。

Flybyは高度なITコンサルティング能力とアジャイル開発の実行力を兼ね備え、顧客のDX推進・業務システム再構築・IT内製化支援で実績を積んできた会社である。開示文でも、上流コンサルティングから開発への切れ目のない接続力が0次DXの思想と強く共鳴すると説明されている。理念を掛け声で終わらせず、機能として買い取る判断だったと考えられる。

連続M&Aが示す成長戦略への転換

情報戦略テクノロジーは2025年2月にインフラ領域のエー・ケー・プラス社を取得しており、本件はそれに続く2件目のM&Aである。2026年12月期第1四半期は売上高23.48億円(前年同期比44.2%増)、営業利益2.22億円(同359.6%増)と大幅増収増益を達成している。

オーガニック成長が好調な局面でなお買収に踏み切ったことは、単発のオポチュニスティックな買収ではなく、自社の機能・技術領域を補完するロールアップ型の成長戦略へ舵を切った可能性を示している。

Flybyの急成長という見極めのタイミング

Flybyの業績は、2023年11月期の売上高147,674千円・営業利益9,471千円から、2025年11月期には売上高393,180千円・営業利益119,980千円へと、わずか2期で売上高2.7倍・営業利益12.7倍という急成長を遂げている。

この成長カーブがさらに急角度になりバリュエーションが跳ね上がる前の段階で資本参加を決めた可能性が考えられる。成長企業への出資は、タイミングを逃すほど取得コストが膨らむという構造上の制約があり、本件はその見極めの難しさを象徴する事例といえる。

3. 想定されるシナジー・経営効果

上流コンサルから実装までの一気通貫体制

Flybyの強みである上流コンサルティング領域から、情報戦略テクノロジーの0次DX型の開発実行体制へと接続することで、提案の質と受注単価の両方を引き上げられる可能性がある。経営課題の抽出段階から関与できれば、下流の開発案件を後追いで受注する構造から脱却できる。

顧客基盤とクロスセルの拡大

両社の顧客層が重複しない場合、相互紹介によるクロスセル効果が期待される。Flybyの上流コンサルティング案件から情報戦略テクノロジーの開発案件への送客、逆に情報戦略テクノロジーの既存顧客へのコンサルティング提案という双方向の展開が想定される。

採用ブランドとエンジニア確保力の強化

高度IT人材の獲得競争が激しさを増す中、複数のブランド・カルチャーを持つグループとして採用チャネルを増やすことは、優秀なエンジニアやコンサルタントの確保という観点で無視できない経営効果を持つ。

4. スケジュール

項目 内容
公表日 2026年8月13日(取締役会決議)
契約締結日 2026年8月13日(株式譲渡契約締結)
クロージング予定日 2027年1月(株式取得実行日、予定)
許認可 開示文上、特段の許認可条件の記載なし
前提条件 業績達成条件等に応じた条件付対価(アーンアウト)の合意あり
業績影響 2026年12月期の連結業績への影響は軽微。2027年12月期第1四半期より連結子会社化予定。中長期的な連結業績向上に資するとの見通し

5. M&A実務上の注目ポイント

二段階取得というスキーム設計の意図

本件では、Flyby株式(最大42株、直接保有では最大19.1%)と、Flybyの親会社であるFlyby Management株式(100株、100%)を同時に取得する。Flyby Managementは代表取締役伊藤一記氏の資産管理会社であり、Flybyの発行済株式の80.9%を保有している。

Flyby Management株式を100%取得することで、間接保有分80.9%と直接取得分を合算し、Flyby議決権所有割合を最大100%まで引き上げる設計になっている。創業者の資産管理会社ごと買収することで、伊藤氏の直接持分(13.6%)以外のガバナンス構造を一本化している点は、実務上の工夫として注目に値する。

アーンアウト条項による価格調整メカニズム

取得の相手先と業績達成条件等に応じて条件付対価に関する合意がされており、Flybyの今後の決算数値に応じて取得価額が変更する可能性があると明記されている。

急成長企業を買収する際、将来の成長を織り込んだバリュエーションで固定価格買収すると、成長が鈍化した場合に買い手が損失リスクを一方的に負う。アーンアウト条項を組み込むことで、実際の業績達成度に応じて対価を変動させ、売り手・買い手双方のリスクを合理的に配分する買収規律が働いている。

少数株主の取扱いという残された論点

Flybyの株主には、Flyby Management(80.9%)、伊藤一記氏(13.6%)に加え、株式会社クラフティ(5.5%)が存在する。開示では発行済株式の全部又は一部を取得するとしており、クラフティ保有分の取得可否・時期については明記されていない。完全子会社化に至らない場合、少数株主が残存する可能性があり、続報を注視すべき点である。

業績影響が軽微とされる理由

本件は連結子会社化を伴う株式取得であるものの、2026年12月期の業績に与える影響は軽微とされている。取得実行が2027年1月予定であり当期の連結決算には反映されないためであり、投資家は今期ではなく2027年12月期以降の業績インパクトを見極める必要がある。

6. 経営者への示唆

資産管理会社ごと買収し、ガバナンスを一本化する

創業者が資産管理会社を通じて対象会社を保有している場合、資産管理会社株式ごと取得することで、株主構成をシンプルにし、将来の意思決定コストを引き下げられる。複雑な株主構成を放置したまま子会社化すると、後々のガバナンスコストが増す。本件は、買収実行前に株主構成そのものを整理する設計思想の参考になる。

急成長企業への出資はアーンアウトで規律を保つ

高成長企業のバリュエーションは、将来の成長を前提に積み上がりやすい。固定価格で買収すると、成長鈍化時に減損リスクを抱える。業績連動の条件付対価を組み込むことで、買収規律を保ちながら成長企業を取り込む設計は、自社のM&Aにも応用できる考え方である。

単発ではなく連続M&Aで機能を積み上げる

情報戦略テクノロジーは2025年2月のエー・ケー・プラス社取得に続き、2件目のM&Aを実行した。単発の買収ではなく、自社の事業モデルを補完する機能を連続的に取り込むロールアップ型の成長戦略は、限られた経営資源で事業領域を拡張したい中堅・成長企業にとって参考になるアプローチである。

7. 競合・業界再編はどう動くか

DX人材不足と多重下請け構造の是正というテーマの下、同業のアジャイル開発・ITコンサル会社も買収対象になりうる状況にある。Flybyのような小規模ながら高収益・高成長の独立系企業は、上場企業やPEファンドにとって魅力的な買収対象になりやすく、今後も上流コンサルとアジャイル開発を掛け合わせる領域での買収競争が発生する可能性が考えられる。

情報戦略テクノロジー自身も継続的なM&Aを行う可能性が高く、同様の成長戦略を取る競合他社との間で、優良な小規模IT企業をめぐる買収競争が今後さらに激しくなることも想定される。

8. まとめ

本件の本質は、情報戦略テクノロジーが0次DXという自社理念を、単なるスローガンから実装可能な事業モデルへ転換するための機能獲得型M&Aである。急成長企業を、資産管理会社ごと、アーンアウト付きで、規律を保ちながら取り込むというアプローチは、自社の事業モデルを拡張したいと考えるすべての経営者にとって示唆に富む事例といえるだろう。

9. 引用元

https://note.com/istech_ir/n/n069af0a8c190
https://kabuyoho.ifis.co.jp/index.php?action=tp1&bcode=155A&sa=report_top
https://web.fisco.jp/platform/companies/0155A00?fm=mj
https://kabutan.jp/stock/?code=155A
https://www.buffett-code.com/company/155A/

10. ディスクロージャー

本記事は、株式会社情報戦略テクノロジーが2026年8月13日に開示した適時開示資料及び公開されているIR情報をもとに、筆者の個人的な見解を交えて作成したものである。特定の銘柄への投資を推奨・勧誘する目的のものではなく、記載内容の正確性・完全性を保証するものでもない。本件を含むM&A・投資判断にあたっては、必ず一次情報である適時開示資料を確認のうえ、公認会計士・弁護士・M&Aアドバイザー等の専門家に相談することを推奨する。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

シェアする