オムロン、米産業用PCのOnLogicを6.75億ドルで買収

オムロン(東証プライム、6645)は2026年10月10日、米国バーモント州の産業用PC(IPC)メーカーOnLogic, Inc.を、その親会社Interlogic, Inc.ごと買収することで合意した。取得価額は企業価値ベースで675百万米ドル、1ドル155円換算で約1,046億円。現金で支払い、主に手元資金を充てる。

OnLogicは構成の自由度が高い堅牢な産業用PCを、代理店を通さない直接販売・受注生産で提供し、売上の9割超を米州・欧州で上げる。2025年12月期の売上高は154.2百万ドル、EBITDAは22.6百万ドルだった。

本記事では、取得価額を開示された財務数値と比べ、オムロンがこの会社にどの水準の価格を払うのか、そしてなぜ株式譲渡ではなく逆三角合併を選んだのかを整理する。

※情報基準日:2026年10月14日。数値は2026年10月13日付のオムロン開示資料による。円換算は開示資料と同じ1ドル155円。

取引の条件

項目 内容
買手 オムロン株式会社(本件のために米国デラウェア州に設立するSPCを通じて取得)
対象 Interlogic, Inc.(持株会社)及びOnLogic, Inc.を含む同社グループ
売手 創業者のRoeland Groeneveld氏・Lisa Groeneveld氏、役職員株主167名
スキーム SPCをInterlogicに吸収させる逆三角合併(Interlogicが存続会社)
取得価額 675百万米ドル(企業価値ベース、約1,046億円)
対価 現金(主として手元資金)
取得後の持分 100%(Interlogicは直接の完全子会社、OnLogicは孫会社)
契約締結日 2026年10月10日(日本時間)
実行予定 2027年1月頃(関係当局の承認等が条件)
業績影響 2027年3月期の連結業績への影響は軽微
アドバイザー オムロン側FAはフーリハン・ローキー、売手側FAはEvercore

OnLogicの財務

Interlogicグループ連結の業績(米国会計基準)は次のとおり。

決算期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上高 129.6百万ドル 122.3百万ドル 154.2百万ドル
EBITDA 15.9百万ドル 11.6百万ドル 22.6百万ドル
調整後EBITDA 20.6百万ドル 16.1百万ドル 27.1百万ドル
EBITDAマージン 12.3% 9.5% 14.7%
調整後EBITDAマージン 15.9% 13.2% 17.6%
純資産 56.7百万ドル 56.1百万ドル 70.1百万ドル
総資産 122.2百万ドル 115.5百万ドル 133.2百万ドル

(マージンは筆者計算)

調整後EBITDAは、デュー・ディリジェンスの結果を踏まえ、買収後に発生が見込まれない費用などを足し戻した参考値である。

売上高は2024年12月期に5.6%減ったあと、2025年12月期に26.1%増えた(筆者計算)。2023年からの2年間の年平均成長率は約9.1%になる。EBITDAは3年間で11.6百万〜22.6百万ドルと振れ幅が大きく、直近期が3年間で最も高い。

OnLogic, Inc.の従業員は301名、拠点は7つ(うち製造拠点2つ)で、米国のほか、オランダ、ドイツ、英国、台湾、マレーシアに子会社を持つ。

675百万ドルは何の何倍か

指標 倍率
EV/売上高(2025年12月期) 約4.4倍
EV/EBITDA(2025年12月期) 約29.9倍
EV/調整後EBITDA(2025年12月期) 約24.9倍
EV/EBITDA(3期平均16.7百万ドル) 約40.4倍
EV/EBITDA(2024年12月期) 約58.2倍
従業員1人当たりEV 約2.24百万ドル(約3.5億円)

(すべて筆者計算)

最も条件の良い直近期の調整後EBITDAを分母にしても約25倍で、ハードウェアを受注生産する会社としては高い水準である。業績が落ち込んだ2024年12月期を基準にすると約58倍になる。オムロンは、OnLogicの現在の利益ではなく、自社の事業と組み合わせた後の姿に対して価格を払っていると考えられる。

倍率が下がるために必要な利益

逆算すると、EV/EBITDAが20倍に下がるにはEBITDAが33.75百万ドル、15倍に下がるには45.0百万ドルが必要になる(筆者計算)。2025年12月期の調整後EBITDA27.1百万ドルからは、それぞれ約25%増、約66%増にあたる。

売上高に換算すると、調整後EBITDAマージン17.6%が続く前提で、45.0百万ドルのEBITDAには約256百万ドルの売上が要る(筆者計算)。2025年12月期の約1.7倍である。開示資料が挙げる相互販売や共同ソリューションが、この規模の上積みにつながるかが価格の妥当性を決める。

オムロンが求めたもの

オムロンは制御機器事業で、「FA機器メーカー」から、現場の機器から得たデータを活用する「GEMBA DX×フィジカルAI企業」への転換を目指している。開示資料が挙げる施策は3つある。

フィジカルAIプラットフォームの開発

OnLogicの産業用PCにオムロン独自の高精度制御技術を組み合わせ、次世代のフィジカルAIプラットフォームの開発を加速する。現場でAIを動かすには、センサーやロボットの近くで演算する堅牢なコンピュータが要る。その部分を自社グループに取り込む狙いとみることができる。

米州・欧州での相互販売

OnLogicの米州・欧州の顧客基盤を使い、オムロン製品とOnLogic製品の相互販売を進める。OnLogicは代理店を介さず顧客に直接販売しており、多様な業種の顧客との直接の接点を持つ。

センシング・ロボティクスとの組み合わせ

オムロンのセンシング機器、ロボティクス機器とOnLogicのIPCを組み合わせ、GEMBA DXとフィジカルAIのソリューションを共同で展開する。

一方で、オムロンは買収後もOnLogicをグループ内の独立した事業として運営し、直販モデルと「OnLogic」ブランドを維持するとしている。CEOのSean Larkin氏をはじめ現経営陣が引き続き経営を担う。オムロンはアジアの事業基盤やFA制御機器の知見を提供する立場をとる。

直販と受注生産というOnLogicの強みは、オムロンの既存の販売網に組み込むと失われかねない。独立運営を明言したのは、高い価格を払った対象の強みを壊さないための判断と読める。ただし、独立性を保つほど、相互販売や共同開発といったシナジーの実現には時間がかかる。

なぜ逆三角合併なのか

オムロンは、米国デラウェア州に設立するSPCをInterlogicに吸収させ、Interlogicを存続会社とする逆三角合併を選んだ。開示資料はその理由を明示している。

Interlogicには創業者2名のほか、役職員株主167名がいる。この167名から個別に株式を譲り受けるのではなく、全株式を一括して取得するためである。

株主構成を見ると、この選択の背景がよりはっきりする。

株主 持株比率 議決権比率
創業者2名 91.94% 99.11%
役職員株主167名 8.06% 0.89%

役職員株主は持株比率で8.06%を持つが、議決権比率は合計0.89%にとどまる。議決権の少ない種類の株式で持っていると考えられる。一般に米国の合併は株主の多数決で承認されるため、議決権の99%超を持つ創業者の賛成があれば、167名全員と個別に譲渡契約を結ばなくても手続を進めやすい。合併の効力発生とともに、株式は対価を受け取る権利に変わる。なお、Interlogicの設立準拠法や承認手続の詳細は開示されていない。

役職員に持分を持たせてきた会社を買収するとき、少数の株主が残ると、完全子会社化が遅れたり、取得後の経営に少数株主の利害が残ったりする。逆三角合併は、それを避けながら、存続会社としてのInterlogicの法人格と契約関係をそのまま維持できる。OnLogicの事業や取引先との契約に手を付けずに済む点も、独立運営の方針と整合する。

約30倍で買うのはOnLogicの利益ではなく顧客との接点

オムロンは、売上高154.2百万ドル、EBITDA22.6百万ドルの産業用PCメーカーを、企業価値675百万ドルで取得する。EV/EBITDAは約30倍、調整後でも約25倍で、倍率を15倍まで下げるには調整後EBITDAを約66%伸ばす必要がある。

この価格は、OnLogic単体の収益力では説明しにくい。オムロンが買うのは、米欧の多様な業種の顧客と直接つながる販売網と、現場でAIを動かすための計算機の設計・生産能力であり、それを制御機器事業の転換に使えるかどうかに価格の妥当性がかかっている。独立運営とシナジーの実現をどう両立させるかが、この買収の成否を分ける。

海外企業の買収で高い倍率がついた事例として、以下の案件と比べると水準の違いがわかる。

塩野義製薬、米IntraBioを20億ドルで買収——2025年売上高の約29.5倍、A-T承認の17日後に契約
https://assetsalon.online/shionogi-intrabio-acquisition-2026/

小森コーポレーション、丸山チラーを264億円で完全子会社化——EBITDA約10倍・単体PER70倍超で半導体へ本格参入
https://assetsalon.online/komori-maruyama-chiller-kabushikishutoku/

引用元

一次情報

オムロン株式会社「産業用PCの開発・製造・販売を手掛ける米国OnLogic社及びその親会社(Interlogic, Inc.)の買収合意に関するお知らせ」(2026年10月13日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20261013/140120261009548913.pdf

オムロン株式会社「Agreement to Acquire the OnLogic, a U.S. Developer, Manufacturer and Seller of Industrial PCs, and Its Parent Company, Interlogic, Inc.」(2026年10月13日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20261013/140120261009548915.pdf

ディスクロージャー

本記事はオムロン株式会社の適時開示資料をもとにした分析です。EBITDAマージン、成長率、EV/売上高、EV/EBITDA、1人当たりEV、倍率低下に必要なEBITDA・売上高などは開示数値から筆者が計算したもので、買収の狙いやスキーム選択の背景に関する記述のうち開示資料に明示されていないものは筆者の解釈です。特定銘柄の売買を勧めるものではありません。判断にあたっては一次情報を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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