平和、ゴルフ場買収で孫会社化を継続

株式会社平和の連結子会社パシフィックゴルフマネージメント株式会社(PGM)が、京浜急行電鉄株式会社から市原京急カントリークラブを運営する株式会社市原京急カントリークラブの全株式を取得する。取得価額は連結純資産の2%未満という小粒な案件だが、平和はこの種のゴルフ場買収を積極的に繰り返しており、一件一件は小さくとも積み上げれば業界内での圧倒的な規模を形成する、典型的なロールアップ戦略の一コマである。

一件あたりのインパクトが軽微なM&Aを、なぜ企業は繰り返すのか。本記事では、ロールアップ型M&Aの経営上の意味を、平和・PGMの事例から読み解く。

案件概要

項目 内容
案件名 株式会社市原京急カントリークラブの株式取得(孫会社化)
開示会社 株式会社平和
対象会社 株式会社市原京急カントリークラブ
買手 パシフィックゴルフマネージメント株式会社(平和の連結子会社)
売手 京浜急行電鉄株式会社
スキーム 株式譲渡(発行済株式全部の取得、孫会社化)
取引金額 非開示(連結純資産の2%未満)
実行予定日 2026年10月1日(予定)
開示日 2026年7月15日

なぜ今このM&Aなのか

平和はゴルフ場の保有・運営を行うゴルフ事業において、事業拡大のため積極的にゴルフ場の買収を継続している。今回の取得により、連結グループの保有ゴルフ場数の拡大と収益の向上を図り、長期的に安定した収益基盤の構築を目指すとされている。

注目すべきは売手側の事情だ。京浜急行電鉄という鉄道・不動産・レジャー事業を手広く展開する企業グループが、ゴルフ場という非中核資産を手放す動きである。鉄道会社が沿線開発の一環として保有してきたレジャー施設を、専業のゴルフ場運営会社に譲渡する構図は、事業の選択と集中が鉄道業界全体で進んでいることを映し出している。

対象会社は3期連続で純資産がマイナス(2026年3月期で約13.6億円の債務超過)という財務状況だが、売上高は700百万円前後で安定し、営業利益・経常利益ともに黒字を維持している。債務超過であっても事業自体は収益を生んでいるという構図は、単体の資本構成に着目するのではなく、運営会社の下でどう収益力を発揮できるかという視点で買収対象を評価する平和グループの姿勢を示している。

想定されるシナジー・経営効果

PGMは日本最大級のゴルフ場運営会社であり、ゴルフ事業の経営管理、子会社の株式保有、ゴルフ場の運営及び運営受託を主要業務としている。個別のゴルフ場を買収するたびに、PGMの持つ集客力(会員基盤、予約プラットフォーム)、コスト管理ノウハウ、運営効率化のスケールメリットが新たに取得したゴルフ場にも適用される。

千葉県市原市という首都圏近郊エリアにゴルフ場を追加することで、既存の保有ゴルフ場ネットワークとの相互送客や、会員制度の一体運用による顧客の利便性向上が見込まれる。単体では小粒な買収でも、既存インフラに接続することで収益貢献度が増幅される点が、ロールアップ型M&Aの本質的な強みである。

スケジュール

項目 内容
株式譲渡契約の取締役会決議日(PGM) 2026年7月15日
株式譲渡契約締結 2026年7月15日
PGMによる株式取得 2026年10月1日(予定)
連結業績への影響 軽微

M&A実務上の注目ポイント

孫会社化という組織構造

本件は平和の連結子会社であるPGMが買収主体となり、対象会社は平和から見て孫会社となる。持株会社的な機能を持つ事業子会社が個別のM&Aを実行し続ける体制は、親会社の意思決定プロセスを都度介さずに機動的な買収を積み重ねられるというメリットがある。グループ内でどの階層に買収実行権限を持たせるかは、ロールアップ戦略のスピードを左右する重要な組織設計上の論点である。

債務超過企業を買収する際の価格妥当性

対象会社は3期連続の債務超過であるにもかかわらず、取得価額は連結純資産の2%未満に抑えられている。これは、買収価格を貸借対照表上の純資産ではなく、事業のキャッシュフロー創出力や保有する土地・施設といった実物資産の価値に基づいて算定していることを示唆する。ゴルフ場のような装置産業型のレジャー施設M&Aでは、財務諸表上の純資産と実質的な事業価値が乖離しやすく、評価手法の選択が価格交渉の要となる。

経営者への示唆

第一に、一件あたりのインパクトが軽微な買収であっても、同一分野で反復的に実行することで、業界内での規模の経済とブランド力を積み上げることができる。単発の大型M&Aだけがポートフォリオ強化の手段ではない。

第二に、非中核事業の売却を検討している同業・異業種の企業の動向を常にウォッチしておくことは、ロールアップ戦略を実行するうえでの案件創出源になる。鉄道会社や商社など、本業とは異なる領域に付随資産を持つ企業は、事業の選択と集中を進める過程で優良な売却案件を生み出しやすい。

第三に、財務内容が悪化している対象会社であっても、運営ノウハウやスケールメリットを持つ買収主体のもとでは収益力を発揮できる場合がある。買収対象の評価は、対象会社単体の財務指標だけでなく、買収後にどのプラットフォームで運営されるかを踏まえて行うべきである。

競合・業界再編はどう動くか

国内ゴルフ場業界は、PGMをはじめとする大手運営会社によるロールアップが継続的に進行しており、独立系ゴルフ場や非中核事業として保有する事業会社系ゴルフ場が、大手プラットフォームに集約される流れが今後も続くとみられる。特に、鉄道・不動産・商社系企業が保有するレジャー施設は、事業ポートフォリオの見直しの中で売却対象になりやすく、大手ゴルフ場運営会社にとって継続的な買収機会となるだろう。競争力のある独立系ゴルフ場運営者が減少するにつれ、業界の集約度はさらに高まっていく可能性が高い。

まとめ

本件の本質は、単体では軽微な買収を反復することで業界内の規模とプラットフォーム力を築き上げる、ロールアップ戦略の典型例であることにある。経営者にとっての示唆は、大型M&Aだけが企業価値向上の手段ではなく、明確な業界地位確立の意図のもとで小型買収を継続的に積み重ねる戦略にも大きな価値があるという点だ。自社の事業領域において、こうした反復型の買収戦略が有効な余地がないか、検討してみてほしい。

引用元

株式会社平和 適時開示資料「当社連結子会社による株式会社市原京急カントリークラブの株式取得(孫会社化)に関するお知らせ」(2026年7月15日)
https://www.heiwanet.co.jp/

ディスクロージャー

本記事は、株式会社平和が2026年7月15日に開示した適時開示資料等の公開情報に基づき、筆者個人の見解として作成したものです。投資勧誘を目的とするものではなく、内容の正確性・完全性を保証するものではありません。記載内容は今後変更される可能性があります。実際の経営判断や投資判断にあたっては、必ず専門家にご相談ください。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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