AIAIグループ、ハビー買収で三育圏を拡大

導入文

2026年7月24日、東証グロース上場のAIAIグループ株式会社(証券コード6557)は、児童発達支援・放課後等デイサービス等を運営するハビー株式会社の株式を取得し、子会社化することを決議した。取得価額は普通株式3,250百万円に諸費用(見込)85百万円を加えた合計3,335百万円(見込)に上る。

売手はウェルビーホールディングス株式会社。大株主にポラリス第五号投資事業有限責任組合という国内大手PEファンドを擁する持株会社であり、本件は事業会社同士の合併というより、PEファンドが育成した療育事業をロールアップ戦略を掲げる上場会社が買い取る、いわゆるPEファンドからのバイアウト(セカンダリー)型の取引に近い性格を持つ。本件実行後、AIAIグループの運営施設数は263施設となる予定であり、保育・療育・教育の「三育」を一体提供する同社の事業モデルにとって、単一案件としては大型の一手である。

本記事では、案件概要とスケジュールを整理したうえで、①なぜ今このM&Aなのか、②想定されるシナジー、③PEファンドからの取得という実務上の注目点、④経営者への示唆、⑤療育業界の再編動向、という論点を掘り下げる。

1. 案件概要

項目 内容
案件名 ハビー株式会社の株式取得(子会社化)
開示会社 AIAIグループ株式会社(証券コード6557、東証グロース)
対象会社 ハビー株式会社(東京都中央区銀座、児童発達支援・放課後等デイサービス等)
買手 AIAIグループ株式会社
売手 ウェルビーホールディングス株式会社(大株主:ポラリス第五号投資事業有限責任組合)
スキーム 株式譲渡による完全子会社化(発行済株式200株、議決権所有割合100%)
取引金額 普通株式3,250百万円+諸費用(見込)85百万円=合計(見込)3,335百万円
実行予定日 2026年9月1日
開示日 2026年7月24日

2. なぜ今このM&Aなのか

「AIAI三育圏」という事業モデルの完成度を高める一手

AIAIグループは、子会社AIAI Child Care株式会社を通じて認可保育施設AIAI NURSERY等115施設を、また2026年2月に子会社化した株式会社きららグループホールディングス傘下の株式会社モード・プランニング・ジャパン(MPJ)を通じて全国主要都市に保育施設77施設を運営し、グループ全体で192施設を展開してきた。同社が掲げる「AIAI三育圏」は、保育・療育・教育の3つの機能を一体提供することで施設間のシナジーを最大化する構想であり、療育領域のさらなる拠点拡大は、この構想の完成度を左右する重要なピースだった。

スピードと効率性を重視したM&Aによる規模拡大戦略

開示では、AIAIグループが「スピードと効率性を重視し、M&Aによる規模の拡大を重要な戦略として掲げて」いることが明記されている。ハビーは子会社の株式会社アイリス・株式会社ハピネスカムズとともに、「ハビー」「アイリスクラブ」「ディグスマイル」ブランドで首都圏中心に全国の主要都市に合計71施設を展開しており、全国的な拠点網・専門人材・運営ノウハウ・地域ネットワークを自前で一から構築するには相応の時間を要する。既に拠点網が確立された事業体をまとめて取り込むことで、有機的成長では届かない速度でのスケール獲得を狙ったM&Aといえる。

PEファンドが育成した事業を引き継ぐタイミング

ハビー株式会社自体は2025年12月15日に設立された比較的新しい会社だが、2026年5月1日にウェルビー株式会社(分割会社)から療育事業を吸収分割で承継しており、承継した事業の2026年3月期売上高は3,470百万円に上る。つまりウェルビーホールディングス(ポラリスがスポンサーのPEファンド傘下)は、療育事業を会社分割で切り出して受け皿会社を整備したうえで、AIAIグループへの譲渡を実行している。PEファンドが投資先事業を再編・磨き上げたうえで事業会社に譲渡するという、典型的なセカンダリー・バイアウトの構造が本件の背景にある。

3. 想定されるシナジー・経営効果

保育・療育施設の連携による利用者導線の強化

開示では、両社の保育・療育施設の連携による利用者導線の強化と、支援領域の拡大を通じた「AIAI三育圏」の更なる推進が第一の狙いとして挙げられている。保育施設に通う子どもの中には療育支援を必要とするケースもあり、グループ内で保育と療育の両方の受け皿を持つことは、保護者にとっての利便性向上とグループの顧客基盤の相互活用の両面で意味を持つ。

人材交流によるノウハウ共有と支援品質の向上

児童発達支援・放課後等デイサービスの現場は専門人材の確保・育成が事業運営の生命線であり、人材交流を通じたノウハウ共有は支援品質の向上に直結する。ハビーグループが持つ運営ノウハウとAIAIグループの既存療育事業(AIAI PLUS、AIAI VISIT)の知見を掛け合わせることで、単純な施設数の合算以上の質的な底上げが期待される。

相談支援体制の充実と管理部門の効率化

開示では、障害児相談支援及び計画相談支援を含む切れ目のない支援体制の充実、管理部門の運営効率化や生産性の向上も価値創出のポイントとして挙げられている。多機能事業所の運営に加えて相談支援機能を持つ事業者を取り込むことで、利用者が支援計画の策定から実際のサービス利用までを一貫して受けられる体制の構築につながる。

4. スケジュール

項目 内容
公表日 2026年7月24日
契約締結日 2026年7月24日(株式譲渡契約書締結)
クロージング予定日 2026年9月1日(株式譲渡実行)
前提条件 取得資金は金融機関からの借入による調達を予定し、現在金融機関と条件等を協議中
業績影響 2027年3月期第2四半期よりハビー株式会社は連結子会社となる予定。業績予想への影響は現在精査中

5. M&A実務上の注目ポイント

PEファンドが整えた「受け皿会社」を買う際の精査ポイント

ハビー株式会社は設立から1年に満たない会社であり、単体の決算実績はほぼ存在しない。開示では2026年5月1日付の吸収分割で承継した事業の経営成績(売上高3,470百万円)と財政状態(流動資産616百万円、固定資産1,251百万円等)が参考情報として別掲されている。PEファンドが会社分割によって事業を切り出し、新設の受け皿会社に承継させたうえで譲渡するスキームでは、買い手は「対象会社の決算書」だけでなく「承継事業そのものの実態」を承継直前の財政状態から精査する必要がある。本件のように吸収分割の効力発生日(2026年5月1日)から株式譲渡契約締結(2026年7月24日)まで約3か月という短期間で取引が進んでいる点も、事前のデューデリジェンスがどれだけ整備された情報を前提に進められたかを示唆している。

子会社を含めた「まとめ買い」の対象範囲の確認

本件はハビー株式会社単体ではなく、その子会社である株式会社アイリス(大阪、放課後等デイサービス7教室)及び株式会社ハピネスカムズ(群馬、放課後等デイサービス6教室)も含めた3社体制での取得となる。特にアイリスは営業利益率が5%程度、ハピネスカムズは25%超と、傘下企業間で収益性に差があることが開示財務諸表から読み取れる。グループ買収では、親会社の数値だけでなく子会社ごとの収益構造の違いを個別に把握したうえで、統合後の運営方針を検討する必要がある。

資金調達を借入に依存する場合のクロージングリスク

開示では、取得資金を金融機関からの借入により調達予定であり、現在金融機関と条件等を協議中であることが明記されている。3,335百万円という取引規模に対して資金調達条件が契約締結時点で未確定であることは、クロージングまでの間に調達条件が確定しない場合のリスクを内包する。買い手企業としては、株式譲渡契約における資金調達を前提条件(ファイナンシング・コンティンジェンシー)としてどう規定しているかが、実務上重要な確認事項になる。

6. 経営者への示唆

示唆1:PEファンドの投資先は「磨き上げ済み」の買収機会になり得る

PEファンドが会社分割等で事業を整理し、譲渡しやすい形に磨き上げたうえで売却する案件は、対象事業のガバナンスや財務情報が一定水準で整備されていることが多い。自社の成長戦略としてM&Aを検討する経営者にとって、PEファンドの投資先企業のExit(売却)案件は、情報の非対称性が相対的に小さい買収機会として選択肢に入れる価値がある。

示唆2:「施設数」ではなく機能の掛け合わせで企業価値を語る

本件の狙いは単純な施設数の積み上げではなく、保育・療育・教育という異なる機能を一体提供する「三育圏」構想の完成度向上にある。M&Aによる規模拡大を検討する経営者は、買収によって施設数や売上がどれだけ増えるかだけでなく、既存事業とどう機能的に噛み合い、顧客導線をどう強化できるかという視点で対象を選定すべきである。

示唆3:借入による大型買収は資金調達条件を交渉の初期段階で固める

3,335百万円規模の取得資金を借入で賄う計画である以上、金融機関との条件協議の進捗が案件全体のスケジュールを左右する。大型M&Aを検討する経営者は、対象企業との交渉と並行して資金調達先との条件交渉を早期に進め、契約締結時点での不確実性をできるだけ小さくしておくことが、クロージングの確実性を高める。

7. 競合・業界再編はどう動くか

児童発達支援・放課後等デイサービスを含む療育業界は、制度に支えられた安定需要と、事業者の多くが中小規模である点で、保育業界と同様にロールアップ型M&Aが機能しやすい構造を持つ。AIAIグループ自身も2026年2月にきららグループホールディングスを子会社化したばかりであり、短期間での連続的な大型買収は、同業他社やPEファンドにとっても療育・保育業界の再編速度が一段上がっていることを示すシグナルになる。

また、本件のようにPEファンドが投資先の療育事業を事業会社へ譲渡する動きが増えれば、同様の手法で他のPEファンド傘下の福祉関連事業者が事業会社の買収対象として市場に出てくる可能性も考えられる。保育・療育・介護といった社会保障制度に紐づく事業領域は、今後も上場企業とPEファンドの双方が主要プレイヤーとして関与するM&A市場として注目されるテーマである。

8. まとめ

本件の本質は、「PEファンドが磨き上げた療育事業を、保育・療育・教育の一体提供モデルを掲げる上場企業が取り込み、規模とシナジーの両方を同時に獲得する」という一言に集約される。単なる施設数の拡大ではなく、既存事業との機能的な掛け合わせを狙った買収である点、そしてPEファンドのExit案件特有の情報整備の進み方は、自社の成長戦略や資本政策を考える経営者にとっても参考になる。自社の事業領域に、PEファンドが育成中の買収候補が存在しないか、一度棚卸ししてみる価値がある。

9. 引用元

https://aiai-group.co.jp

10. ディスクロージャー

本記事は、AIAIグループ株式会社が2026年7月24日に開示した「ハビー株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」をもとに作成した個人の見解であり、特定の銘柄への投資を勧誘する目的のものではない。記載内容の正確性・完全性を保証するものではなく、将来の業績や株価の動向を示唆するものでもない。本件の詳細な法務・会計・税務上の取扱いについては、必ず一次情報である適時開示資料を確認のうえ、弁護士・公認会計士・税理士等の専門家に相談することを推奨する。

アセットサロン編集長

日系M&AアドバイザリーファームにてM&A業務に従事。上場企業・中堅企業のM&A仲介・FA業務を中心に、デューデリジェンス、バリュエーション(DCF法・マルチプル法)、スキーム設計、契約交渉、PMI支援を経験。現在は、TDnetに日々公開される上場企業の適時開示情報をもとに、M&Aの背景・財務的影響・業界再編の動向を独自の視点で解説するメディア「アセットサロン」を運営。専門分野:上場会社M&A・TOB・PMI・企業価値評価・資本政策・IR解説

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