2026年8月13日、東証グロース上場の情報戦略テクノロジー(155A)は、ITコンサルティングとアジャイル開発を手掛ける株式会社Flybyと、その親会社である株式会社Flyby Managementの株式を同時に取得し、子会社化すると発表した。取得価額は合計で最大829百万円に達する見込みである。
同社は2025年2月に株式会社エー・ケー・プラスの株式取得を、2026年3月にデータ・AI人材育成の株式会社ピープルドットの株式取得(80%、2026年4月1日取得)を決議しており、本件は開示ベースで3件目の子会社化案件となる。筆者の見方では、単発の買収ではなく、連続的な布石であることがうかがえる。
※情報基準日:2026年10月6日。株式取得の実行は2027年1月の予定であり、本稿執筆時点で未実行である。
本記事では、情報戦略テクノロジーによるFlyby子会社化の背景にある経営判断、資産管理会社ごと取得する間接・直接の二層スキームの意味、そしてアーンアウト条項が示す買収規律について、経営者・M&A実務家の視点から読み解く。
目次
1. 案件概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 案件名 | 株式会社Flyby及び株式会社Flyby Managementの株式取得(子会社化) |
| 開示会社 | 株式会社情報戦略テクノロジー(東証グロース、155A) |
| 対象会社 | 株式会社Flyby/株式会社Flyby Management |
| 買手 | 株式会社情報戦略テクノロジー |
| 売手 | 伊藤一記氏(Flyby代表取締役。Flyby Management株式100%を保有)。Flyby株式の直接取得分(最大19.1%)は、開示上の大株主構成では伊藤氏13.6%・株式会社クラフティ5.5% |
| スキーム | 現金を対価とする株式取得。資産管理会社Flyby Management(Flyby株式80.9%保有)の全株取得と、Flyby株式(最大19.1%)の直接取得を組み合わせる。条件付対価(アーンアウト)の合意あり |
| 取引金額 | 合計最大829百万円(Flyby株式:最大158百万円、Flyby Management株式:671百万円)、別途アドバイザリー費用概算150万円 |
| 実行予定日 | 2027年1月(株式取得実行日、予定) |
| 開示日 | 2026年8月13日 |
2. なぜ今このM&Aなのか
0次DXという理念と垂直統合の必然性
情報戦略テクノロジーは、多重下請け構造を破壊し顧客との距離をゼロにする0次DXというスタイルを掲げてきた企業である。この理念を実装するには、経営課題を捉える上流のコンサルティング領域から、スピーディーな開発実行までを自社グループで一気通貫に持つ必要がある。
開示によれば、Flybyは高度なITコンサルティング能力とアジャイル開発の実行力を兼ね備え、顧客のDX推進・業務システム再構築・IT内製化支援で実績を積んできた会社である。開示文でも、上流コンサルティングから開発への切れ目のない接続力が0次DXの思想と強く共鳴すると説明されている。筆者の見方では、理念を掛け声で終わらせず、機能として買い取る判断だったと考えられる。
連続M&Aが示す成長戦略への転換
情報戦略テクノロジーは2025年2月のエー・ケー・プラス社、2026年4月のピープルドット社に続き、本件で3件目の子会社化に踏み出す。2026年12月期中間期の連結業績は売上高4,841百万円(前年同期比33.1%増)、営業利益351百万円(同119.5%増)と増収増益で、同社は決算短信でM&Aを「重要な経営戦略」と位置づけている。
筆者の見方では、オーガニック成長が好調な局面でなお買収に踏み切ったことは、単発のオポチュニスティックな買収ではなく、自社の機能・技術領域を補完するロールアップ型の成長戦略へ舵を切った可能性を示している。
Flybyの急成長という見極めのタイミング
Flybyの業績は、2023年11月期の売上高147,674千円・営業利益9,471千円から、2025年11月期には売上高393,180千円・営業利益119,980千円へと、わずか2期で売上高2.7倍・営業利益12.7倍という急成長を遂げている。
筆者の見方では、この成長カーブがさらに急角度になりバリュエーションが跳ね上がる前の段階で資本参加を決めた可能性が考えられる。成長企業への出資は、タイミングを逃すほど取得コストが膨らむという構造上の制約があり、本件はその見極めの難しさを象徴する事例といえる。
3. 想定されるシナジー・経営効果
上流コンサルから実装までの一気通貫体制
筆者の見方では、Flybyの強みである上流コンサルティング領域から、情報戦略テクノロジーの0次DX型の開発実行体制へと接続することで、提案の質と受注単価の両方を引き上げられる可能性がある。経営課題の抽出段階から関与できれば、下流の開発案件を後追いで受注する構造から脱却できる。
顧客基盤とクロスセルの拡大
筆者の見方では、両社の顧客層が重複しない場合、相互紹介によるクロスセル効果が期待される。Flybyの上流コンサルティング案件から情報戦略テクノロジーの開発案件への送客、逆に情報戦略テクノロジーの既存顧客へのコンサルティング提案という双方向の展開が想定される。
採用ブランドとエンジニア確保力の強化
筆者の見方では、高度IT人材の獲得競争が激しさを増す中、複数のブランド・カルチャーを持つグループとして採用チャネルを増やすことは、優秀なエンジニアやコンサルタントの確保という観点で無視できない経営効果を持つ。
筆者試算:100%換算で約8.3億円、純利益の約9.8倍。のれんは自己資本の9割規模へ
以下は開示数値に基づく筆者の試算である(Flybyの財務数値は未監査)。Flyby Management株式671百万円で間接保有80.9%、Flyby株式最大158百万円で直接19.1%を取得するため、100%換算の取得総額は約829百万円となる。671÷80.9%≒829、158÷19.1%≒827と、間接・直接のいずれも1%あたり約8.3百万円でほぼ同水準に設定されている。Flyby Managementの純資産は0.48百万円にすぎず、価値のほぼすべてがFlyby株式に由来する。
Flybyの2025年11月期は売上高393百万円、営業利益119百万円(営業利益率約30.5%)、当期純利益84百万円、純資産144百万円で、取得総額は当期純利益の約9.8倍、営業利益の約6.9倍、純資産の約5.7倍にあたる(条件付対価により変動しうる)。情報戦略テクノロジーの2026年12月期通期予想(売上高10,702百万円、営業利益757百万円)と比べると、Flybyの売上高は約3.7%にとどまる一方、営業利益は約16%に相当する。同社の中間期の営業利益率は約7.3%であり、利益率の高い会社を取り込む案件といえる。
財務面では、2026年6月末の現金及び預金2,017百万円に対し取得総額は約4割にあたる。同時点ののれんは1,083百万円(ピープルドット取得分676百万円を含む)で、自己資本1,942百万円の約56%に達している。仮にFlybyの純資産が2025年11月期末と同水準なら、本件で生じるのれんは約6.8億円となり、合計のれんは自己資本の約9割の規模になる(実際ののれん額は未確定)。筆者の見方では、連続M&Aにより、取得した会社の業績が計画どおりに進むかどうかが自己資本に与える影響は大きくなっていく。
4. スケジュール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公表日 | 2026年8月13日(取締役会決議) |
| 契約締結日 | 2026年8月13日(株式譲渡契約締結) |
| クロージング予定日 | 2027年1月(株式取得実行日、予定) |
| 許認可 | 開示文上、特段の許認可条件の記載なし |
| 前提条件 | 業績達成条件等に応じた条件付対価の合意あり(Flybyの今後の決算数値に応じて取得価額が変更する可能性) |
| 業績影響 | 2026年12月期の業績への影響は軽微(決算短信では「影響はございません」)。2027年12月期第1四半期より連結子会社化予定。中長期的な連結業績向上に資するとの見通し |
5. M&A実務上の注目ポイント
間接保有と直接取得を組み合わせるスキーム設計の意図
本件では、Flyby株式(最大42株、直接保有では最大19.1%)と、Flybyの親会社であるFlyby Management株式(100株、100%)を同時に取得する。Flyby Managementは代表取締役伊藤一記氏の資産管理会社であり、Flybyの発行済株式の80.9%を保有している。
Flyby Management株式を100%取得することで、間接保有分80.9%と直接取得分を合算し、Flyby議決権所有割合を最大100%まで引き上げる設計になっている。筆者の見方では、創業者の資産管理会社ごと買収することで、資産管理会社を介した保有構造をそのまま引き継ぎつつ議決権を集約できる点は、実務上の工夫として注目に値する。
アーンアウト条項による価格調整メカニズム
取得の相手先と業績達成条件等に応じて条件付対価に関する合意がされており、Flybyの今後の決算数値に応じて取得価額が変更する可能性があると明記されている。
筆者の見方では、急成長企業を買収する際、将来の成長を織り込んだバリュエーションで固定価格買収すると、成長が鈍化した場合に買い手が損失リスクを一方的に負う。アーンアウト条項を組み込むことで、実際の業績達成度に応じて対価を変動させ、売り手・買い手双方のリスクを合理的に配分する買収規律が働いている。
少数株主の取扱いという残された論点
Flybyの株主には、Flyby Management(80.9%)、伊藤一記氏(13.6%)に加え、株式会社クラフティ(5.5%)が存在する。適時開示では「全部又は一部」を取得するとしている一方、同日の決算短信(重要な後発事象)では残余19.1%も別途取得し、Flybyの発行済株式の全部(100%)を取得して実質的に完全子会社化すると記載されている。クラフティからの取得時期などの詳細は開示されておらず、実行時の続報で確認すべき点である。
業績影響が軽微とされる理由
本件は連結子会社化を伴う株式取得であるものの、2026年12月期の業績に与える影響は軽微とされている。取得実行が2027年1月予定であり当期の連結決算には反映されないためとみられ(筆者の見方)、投資家は今期ではなく2027年12月期以降の業績インパクトを見極める必要がある。
6. 経営者への示唆
資産管理会社ごと買収し、ガバナンスを一本化する
筆者の見方では、創業者が資産管理会社を通じて対象会社を保有している場合、資産管理会社株式ごと取得することで、株主構成をシンプルにし、将来の意思決定コストを引き下げられる。複雑な株主構成を放置したまま子会社化すると、後々のガバナンスコストが増す。本件は、買収実行前に株主構成そのものを整理する設計思想の参考になる。
急成長企業への出資はアーンアウトで規律を保つ
筆者の見方では、高成長企業のバリュエーションは、将来の成長を前提に積み上がりやすい。固定価格で買収すると、成長鈍化時に減損リスクを抱える。業績連動の条件付対価を組み込むことで、買収規律を保ちながら成長企業を取り込む設計は、自社のM&Aにも応用できる考え方である。
単発ではなく連続M&Aで機能を積み上げる
情報戦略テクノロジーは2025年2月のエー・ケー・プラス社、2026年4月のピープルドット社に続き、本件で3件目の子会社化を決議した。単発の買収ではなく、自社の事業モデルを補完する機能を連続的に取り込むロールアップ型の成長戦略は、限られた経営資源で事業領域を拡張したい中堅・成長企業にとって参考になるアプローチである。
7. 競合・業界再編はどう動くか
筆者の見方では、DX人材不足と多重下請け構造の是正というテーマの下、同業のアジャイル開発・ITコンサル会社も買収対象になりうる状況にある。Flybyのような小規模ながら高収益・高成長の独立系企業は、上場企業やPEファンドにとって魅力的な買収対象になりやすく、今後も上流コンサルとアジャイル開発を掛け合わせる領域での買収競争が発生する可能性が考えられる。
情報戦略テクノロジー自身も継続的なM&Aを行う可能性が高く、同様の成長戦略を取る競合他社との間で、優良な小規模IT企業をめぐる買収競争が今後さらに激しくなることも想定される。借入を活用して連続的に子会社を取得する例としては、ヒトトヒトによる借入を活用した株式取得も参考になる。
8. まとめ
筆者の見方では、本件の本質は、情報戦略テクノロジーが0次DXという自社理念を、単なるスローガンから実装可能な事業モデルへ転換するための機能獲得型M&Aである。急成長企業を、資産管理会社ごと、アーンアウト付きで、規律を保ちながら取り込むというアプローチは、自社の事業モデルを拡張したいと考えるすべての経営者にとって示唆に富む事例といえるだろう。
9. 引用元
株式会社情報戦略テクノロジー「株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」(2026年8月13日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260813/140120260813518907.pdf
同社「2026年12月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年8月13日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260813/140120260812518666.pdf
同社「株式会社ピープルドットの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」(2026年3月26日)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260326/140120260325589230.pdf
10. ディスクロージャー
本記事は、株式会社情報戦略テクノロジーが2026年8月13日に開示した適時開示資料及び公開されているIR情報をもとに、筆者の個人的な見解を交えて作成したものである。特定の銘柄への投資を推奨・勧誘する目的のものではなく、記載内容の正確性・完全性を保証するものでもない。「筆者試算」「筆者の見方」とした部分は筆者独自の計算・解釈である。本件を含むM&A・投資判断にあたっては、必ず一次情報である適時開示資料を確認のうえ、公認会計士・弁護士・M&Aアドバイザー等の専門家に相談することを推奨する。